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ep.2 暴力は愛の一つのカタチだから
ジンは一つの古びたダイナー調の食堂に足を踏み入れた。
すると、どうやら黒髪の小柄な少年とデブな中年男性が戦っているようだった。小柄な少年の方が一歩上手でデブの攻撃を軽々と避け、少年の羽織っていたロングコートが靡く。観客から野次や拍手が飛び交う。それでも動じない姿は戦い慣れしているなとジンは悟った。
しかし、ジンはその戦いに関心はない。むしろ、関わりたくはないと思った。おそらく彼は殺しを躊躇わず、楽しんでいるようにも思えた。そのためジンはそいつらを無視し、カウンター席に腰掛けた。メニューを見るが、さすがはシャンディガフ。どれも見るからに美味しそうではない。ジンの食欲は一気に失せたので、1番マシそうなフライドポテトを頼む。出てきたものを口に放り込んで咀嚼する。油がシャバシャバで予想通り美味しくない。
すると背後から銃の発砲音が鳴り響くが、ジンは気にせず口にポテトを放り込む。その直後、弾丸が体を貫く音がした。
「あっははは!当たり〜♪おじさん、デブのくせに当たんないんだもん。ゴキブリ並みの生命力やね。でも、大丈夫。僕がもっと愛してあげるからさ。」
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撃ち抜かれた。腹を。撃ち抜かれた。臓腑が焼けるような痛みでどうにかなってしまいそうだ。密売人は目の前の少年を見つめる。少年は嗤っていた。楽しそうに嗤っていた。その光景に密売人は畏怖を覚えた。
時はジンがこの食堂に来る前に遡る。
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密売人は客との取引を終えたところだった。ここは食堂。と言ってもここは闇取引が横行する。|主人《オーナー》も闇取引については言及しない。自分が酷い目に遭うと思っているからだ。密売人が煙草を吸っていると、ぎぃと重い扉が開かれた。1人の少年がやってきた。少年は小柄で黒髪マッシュで色白な肌に映える深い藍色の瞳の少年だった。美形で笑みを浮かべていたが、冷たく見えるその姿に誰もが目を奪われたと思う。すると、その少年は密売人のいる席に腰掛けた。その行動がやたらと艶やかで目のやりどころに困ってしまう。
「おにーさん、僕と一緒に遊ぼーよ?
だいじょーぶだいじょーぶ!、こんな所やったら|僕《未成年》と遊んでも罪になんて問われへんよ、ねぇ?」
少年は目を細め密売人にそう言った。何故だろうか。
その甘美な言葉に密売人はまんまと魅了されて騙されてしまった。
「うん。わかった、小僧。せいぜいその貧相な体で俺を楽しませてくれよ。」
少年は顔を輝かせ、舌を舐めた。そして、1つの拳銃を密売人の手に握らせた。少年の手はアクセサリーが沢山付けられおり、無機質な感触がした。
「うれしいなぁ。僕がおじさんを精一杯愛してあげるね。」
そう告げた途端、少年は密売人に銃を発砲した。
パァンと甲高い音が店内に響いた。弾丸が密売人をめがけて飛んでくる。まるで人をも殺す光線のように。
避けなければ。まだ死にたくない。
その一心で密売人は弾丸を避けた。
店内は拍手でいっぱいになる。予想できたことだ。ここにいるものは皆、娯楽に飢えている。自分がその立場でも、拍手したであろう。見事な技術だと。でも今回は訳が違う。
煩い。外野は黙ってろ。
「わぁ。避けるなんて。酷いわぁ。僕はおじさんのこと愛してあげてるのに。」
「何のことだ?小僧。殺し合いが愛とでも言いたいのか?」
「うぅん。違うけど違わない。僕はね、暴力は愛の一つのカタチやと思うんよね〜。僕の中ではそれが当たり前やから。」
「フッ。気色の悪い小僧め。愛が暴力なわけなかろう。可哀想なやつめ。」
「ねぇ。今、可哀想って言った?言ったよね。僕、大嫌いなんよ。そう言う人。」
少年はふつふつと怒りを含んだ声でそう言った。顔は笑っていた。恐ろしいくらいに。
「おじさん、可哀想の定義って何?おじさんにとっては僕は可哀想な人間なの?」