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3.風と熱と
私の中学校はあと5日で夏休みに入るらしい。
今さっき山吹かゆに渡されたクリアファイルがいつもより厚く、重量があるのは、夏休みの課題も入っているからだろう。
でも手をつける気には到底なれなかった。どうせちんぷんかんぷんだし、夏休み明けも私は学校に行かないだろうし、先生も誰も、期待なんてしていない。
私が家でぼうっとSNSを見ていた間も、外の世界は動いていた。
季節は変わり、私と同い年の山吹かゆたちは成長して行く。
社会からはみ出た私は置いてきぼりにされる。しかしそれも、当たり前のことだった。
私は自室の、つけっぱなしだったエアコンを消した。その代わりに窓を開けた。
湿った風が入り込んで、カーテンを弱々しく揺らす。
私もみんなと同じようになりたいとか、そんなことを望んでいるわけじゃない。
ただ、季節を感じないのは勿体無いかなと思っただけ。それだけ。
窓を開けたことで、外の音が空気に溶けて聞こえてきた。
下校途中の小学生たちの騒ぎ声。車のエンジンの音。私が在籍している中学校からだろう、運動部の掛け声とホイッスルの音も混じっていた。
胸焼けに似た変な感覚に陥った。
熱を持った声が耳に入ってくると、喉の奥が気持ち悪くなった。
私がいなくても世界は何も変わらないって、理解はしていたけど、受け入れることはできなかった。
ちゃんと学校に通っていて、ちゃんと部活動に励んでいて、ちゃんと生活している。そういう人の存在を突きつけられるのは、嫌なことだと知った。
窓を閉めた。湿度の高い風のせいで肌がベタついていた。
現実逃避するみたいに、エアコンをつけた。でもそのエアコンから流れてくる、新鮮な空気さえ、私には似合わない。
続きのアイデア誰かちょうだい