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単独任務。2
「っ、……これで終わりか……!?」
幾らなんでも鬼の量が多すぎるだろ。
さっき死んでいた隊士もああやって体力が削れていって、最終的に隙をつかれたのだろう。
こりゃあ本当にきつい。
というか、もしかしてだけど他の隊士達も来ていたりするのか……?
その場合、すごくやりづらくなってしまう。
私の鴉は外で待っている筈だから、もし何か違和感があれば応援を呼びに行くだろう。
「っ、しんどすぎる……」
きつすぎて、その場に座り込んでしまう。
あまりにも鬼の数が多い、しかも一体一体が割と強い。
そして何より、手掛かりが掴めたのにどうにもできないもどかしさ、っていうのがあった。
「彼処の壁、集中して突けば何か起こるか……?」
いや、それでもしんどいな。
体力が着実に減っていってるし、他に人がいた場合巻き込んでしまう可能性もある。
どうするか………
──────急に何か、他の人の気配を感じた。
それを感じて、バッと刀を持って立ち上がる。
鬼じゃない……隊士か、それか興味を持って近づいてしまった阿呆か。
どちらにしよ今の私からすればすごくだるい。
一般人の場合、守って戦わないと行けないから。
……でも幾ら構えても誰も来なかった。
気のせい、っていうやつなんだろうか。
「っ、やばいな……」
これじゃ私も他の隊士の様な死を迎える。
それだけは絶対に避けたい。
帰って義勇さんに褒めてもらいたいし……
でもうだうだ考えているだけじゃなにもできない。
死ぬ覚悟で此処の空間を出るか、それとも他の対処法を考えるか。
「……何だこれ…」
何か、さっきの鬼達とは違う……
しっかりした鬼の気配、そして何処か強い。
元凶もこの空間にいたりするのか!?
「っ、でも……」
壊して引っ張り出したほうが早いのではないか、少しだけそんな考えが頭をよぎった。
いやでも、確かに引っ張り出したほうが早いかもしれない。
死ぬ気で、出てくる鬼の攻撃を無視して、突き技を……
覚悟を決め、柄に手をかけて息を吸う。
「水の呼吸・漆の型……雫波紋突き!!」
技を繰り出したと同時に、鬼がたくさん出てきた。
でも私にはもう関係のないものだ。
鬼の攻撃が私に届こうとした直前、
─────すごい揺れと音と共に、何かが割れた感覚がした。
それと同時に、周りにいた鬼が全員ボロっと灰が崩れるように消えていった。
「消え、たよな……」
気持ちの悪い感覚が消え、少しだけ何が何処にいるかわかるようになった。
そのおかげで鬼特有の感覚の気持ち悪さが何処か……遠めの所から来ているのがわかる。
「後は殺すだけ……早く向かわないと……」
疲労で動かない脚を無理やり動かして、鬼の気配がする方に向かっていく。
いやでも、この空間が割れたことは鬼は知っている筈だし、何か仕掛けてくるだろうなってのは予想ができるけど……
「……何も無い……??」
何も無いなら何も無いでいいんだが……
未だに鬼の気配が消えない、っていうのがすごく怖い。
更に警戒を強めて歩き出そう、なんて思った時………
─────突如、背後から物凄い殺気が溢れ出ているのを感じ取った。
鞘から刀を抜き、後ろを振り返って刀を振る。
……瞬間、こっちに向かってきていた何か触手のようなものが弾かれて斬られた。
それはその場にボトボトと落ち、斬られても動き続けるため少し気持ち悪い。
「……誰だ」
一声掛けると、ゆっくりと職種のようなものが飛んできた方向から誰か歩いてきた。
人間じゃない、鬼の独特な気持ちの悪い気配。
間違いない、鬼だ。
私を空間内に閉じ込めた元凶の鬼。
「どうやってあの空間から出られたのかしか……詰めが甘かったとか?そこの貴女……どう思う?」
そう言ってにこりと不気味に笑った。
その笑顔を見ると、心底吐き気がして仕方がない。
「さぁ……どうだろうね」
刀を構えて、いつでも斬りかかれる様にする。
「あらあら……そんな敵対しなくてもいいじゃない?女の子がそんな顔しちゃ駄目でしょ?」
そう言ってゆっくりと私の方に歩いて近寄ってくる。
鬼が一歩歩み寄って来る度に、私は一歩ずつ後ろに下がっていく。
「……あんたは何が目的だ」
「目的?うーん……そうね……」
ちょっと考えるような仕草をした後、また不気味な笑みを……今度は少し企んでいるような表情になって口を開いた。
「なーんにもないわ。ただ退屈だから。貴女達みたいな人が私のことを殺しに掛かるから私も殺す、ただそれだけよ。」
そう言って懐から何かを取り出した。
私は更に腰を少し落とし、いつでも斬れる様にする。
「可愛いでしょ?これ」
手にあるのは誰かの目玉。
それを鬼は恍惚の表情を浮かべながら見つめ、私に語り始める。
「こんな瞳をしている人を探しているの。貴女じゃあないけどね。まぁでも……貴女も綺麗な瞳をしているわ」
恍惚な表情のまま、私に少し早歩きになりながら向かってくる。
これ以上話を聞いていても仕方ないな、って言うことに気付いたから息を吸った。
「水の呼吸・肆ノ型 打ち潮!!」
技を出し、斬りかかろうとする。
鬼の方も触手の様なものを出して防ごうとしていたけど関係ない。
そのまま重たい一撃で首を斬ろうとしたけど、鬼はギリギリ後ろに反るように避けたため浅い傷口ができるぐらいだった。
「ふぅん……貴女も殺そうとするのね。私は貴女にとって利があるものだと思ったのだけれど……」
ちょっと不機嫌そうな雰囲気になったことが分かった。
そのまま背中から七……八本はある触手のようなものを生やして、手には光をまとわりつかせた。
正直言って、気持ち悪い。
そのまま鬼は光を見つめながら、口を開いた。
「あらそうなの……貴女、もしかして恋する乙女かしら?」
「っ、は?」
唖然として、思わず変な声が出てしまう。
なんでバレている?
「なんでバレている?とでも言いたそうね。まぁ、そんな駄目な男より私を見ていた方が余っ程楽しいと思うのだけど……」
多分だけど、私の心の内を読まれているか、そこら辺をされているのだろう。
いや、正直読まれるぐらいだったらなんでもいい。
問題は……
「…………てめぇ……今なんつった?」
私の最愛の人を侮辱されること。
「聞こえなかったのかしら?そんな駄目な男より私を見ていた方……」
全てを聞かずに、私は首を一直線にねらっていった。
だけどこの鬼は反射神経が良いらしく、またもギリギリで回避をして即座に私の腹を貫こうとしてくる。
「…………てめぇはもう喋るな、屑」
「まぁ酷い。そんな事を言わなくたっていいじゃない?」
チッ、と舌打ちをして刀を構える。
息を吸い、技を繰り出そうとする。
「水の呼吸・参の型……」
「血鬼術……」
"流流舞"
"蛇腹毒掌"
八本の触手のようなものが私に一斉に向かってくる。
それをいなしたり斬ったりしつつ、何とか鬼の首を斬るように前に踏み込もうとする。
が、それを防ぐ様に背後を刺したりしようとしてくる。
それの繰り返しだった。
そろそろ技が途切れる、っていう時、
─────その場に大きい音と共に土埃が激しく舞った。
切り時がわからなかった。