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3rd collaboration.3
ルイスside
「…兄弟、って云った、かな…」
静まり返ったカフェ。
僕の口から零れたのは何の考えもない、ただ意味を理解するために繰り返された言葉だった。
「…もう少し詳しく説明してくれない?」
驚いてはいる。
戸惑ってもいる。
けど、何故か自分でも不思議なほどに落ち着いていた。
テニエルについて調べたことがあるからかな。
「言葉の通り、出会って少しの”敵”さんとは違って、私達は血の繋がりっていう深い絆で繋がってるわ、ねぇ、テニエル~♡」
敵の部分を強調された気がして、少し気分が悪い。
確かに桜月ちゃんはまだしも、僕は出会って数日だ。
メアリーの言う通り“血の繋がり”は何よりも深く、決して消えることのない絆。
それでも、血が繋がっていない僕とアリスは━━
━━ロリーナ達との絆は、絶対にテニエルと兄弟達の絆よりも深い。
そもそも、血の繋がりで縛り付けるのは間違ってる。
犯罪者の子供は犯罪者か。
血縁者なら何をしてもいいのか。
今すぐにでも溢れそうな言葉を必死に飲み込むも、居場所を特定して殴りに行こうかと思った。
『…落ち着きなさい、ルイス』
あぁ、分かっている。
分かっているからこそ、この感情は落ち着くことを知らない。
ふと桜月ちゃんの方を見ると、こちらを見ていた。
彼女も思うところがあるのだろう。
でも、今は口を挟むべきじゃないから。
僕が頷くと、桜月ちゃんも小さく返してくれた。
「あら、疑うなら血液証明書を送ってあげるわよ?」
この明るく饒舌な話し方は、ハリエットだろうか。
あの女と似たような雰囲気を感じ、桜月ちゃんが大丈夫か心配になる。
電話越しでこんな、飲み込まれそうな人間がいたのか。
「…大丈夫です」
ペースに飲まれることなく、桜月ちゃんは返した。
「__別に血のつながりがあるから絆が結ばれていると言いたい訳ではないからな...まぁ、」
「テニエルー、次この形態に僕からの着信がある時迄には、そこの二人とのお別れを済ませておいて、ねっ?」
「あっおい、俺の台詞取るなっ」
「あははっ」
プツリ、と通話は途絶える。
また静まり返った店内に、思わずため息を溢してしまった。
緊張が解けたのが一番大きいと思うけど━━。
「…ねぇボス、あの人たちホントに」
「桜月ちゃん、...今回は__ちょっと、ややこしい事になっているかもしれないね」
「ぇ、ルイスさん、『なる』じゃなくて『なっている』って…?」
色々と気になること、不安なこと、予測できることがある。
何処から話を進めるべきだろうか。
「…その前にまだ話せていない部分を伝えるのが先じゃないか?」
テニエルの言葉で、改めて状況把握をすることになった。
気になる大部分は現在の状況だから助かる。
どうやら始まりは桜月ちゃんが少し様子がおかしいテニエルを見つけた事らしい。
あまりにも焦りが募っていた様子だったと云う。
原因は”誰か”と通話していた事で、詳細は彼女の管轄内のカフェで話す事になったとのこと。
先程通話していた相手━━そして桜月ちゃんが見つけた時の電話相手も多分テニエルの元仲間。
そんな彼らがヨコハマに来る。
目的はテニエルが失敗した”このヨコハマを手に入れること”。
テニエルを連れ戻すのも二番目ぐらいの目的だろう。
組織構成を簡単にまとめるのなら、その呼び名の通りトップであるジョージ。
ポートマフィアでいう幹部的な立場がフランシス、ハリエット、メアリーの三名。
テニエルもここに入るらしい。
その下はまぁ、僕も少し戦闘したポートマフィアの数をも凌駕するかもしれない兵士と異能力者。
”ボス”という組織の頭領の呼び名は、テニエルが別で持っている組織で、先の組織とは別物。
前動いていたのはそっちだから彼が”ボス”だったらしい。
それが理由で今回の「彼ら」の、直接的な支援がなかった。
だからあの程度で済んだ、と云えるのだろう。
あと魔人君と直接やり取りしていたのはトップらしい。
ずっと話を聞いており、少し疲れた。
まぁ、そんなことを云っている余裕はないけど。
さてと、自分で情報をまとめていると幾つか疑問点が浮かぶ。
「…なんとなく話の流れで勘付いてはいたけれど…」
「…はい。前回私達の何方かが死なないといけない、という条件を課したのはトップの異能、」
--- |不幸な選択遊び《Unhappy Choice Game》 ---
「…そして、そのトップの異能をボスの異能に組み合わせたのも」
「テニエルと同等の立場の彼らの内の誰か、ということだね…」
うん。
何故こういう組織は、こんなにも面倒くさい異能者が多いのだろう。
とりあえず“|不幸な選択遊び《Unhappy Choice Game》”の対象は二名で、前回でいう“どちらか死ぬまで帰れない”のように選択条件を課せるのかな。
今思えば、そういう現実改変の異能はあまり相手にしてこなかった。
味方、だったし。
「その異能の詳細としては、自らが選択した二人の人物に、特定の選択条件を課すことができる異能...らしいです」
予想通りだ。
「成程ね、前回姿すら現さなかった彼らの異能だから、あの時どうにもならなかったわけだ」
先に異能で条件が課されていた。
今回は、どうなんだろうね。
「…あの」
「どうしたの?」
どの辺りから聞いていたのか、とのこと。
そういえば、電話が掛かってきたりしてちゃんと話せてなかったか。
僕は説明して、飲み物を少し口に含む。
もう冷めているが、味は変わらず美味しい。
ふと、テニエルの様子を見ると相変わらず顔色が悪かった。
揺れてしまうのは分かるけれど、今はまだ切り札だ。
休んでもらいたいと思うのは、もちろん僕だけではない。
「…ボス、本当に一旦休んだ方がいい、と思う、」
「テニエル、今は休むべき時だよ…これから忙しくなるだろうから、尚更ね」
少し反応が遅れて、テニエルは口を開く。
「…あぁ、悪い…少し自分の部屋に戻って休む。お前たちは取り敢えず首領の所に…」
「たしかに、出来るだけ早くこの件についての報告も…したほうがいいだろうね」
「ぁ、私先にルイスさんが来てること携帯で連絡しておきます!」
そう桜月ちゃんは取り出した携帯に、文字を打ち込んでいるようだった。
返信は意外と早いようで。
「…”分かった、詳しい話は帰ってから聞くよ”だって」
「…俺の異能でいいか?」
「勿論だよ__ごめんね、突然にお邪魔することになっちゃって」
「いえっ、今回の件は私達に原因がありますから…」
テニエルの表情が、また暗くなる。
僕もそうだけど、そう簡単に気分を切り替えることができないようだった。
早く休んでくれれば、今はとりあえずいいけど。
「…取り敢えず戻るか」
「そうだね」
「じゃあ、ボス、お願い…!」
本日二回目の浮遊感。
意外とすぐにポートマフィア本部へと着き、特に意味もなく僕は辺りを見渡していた。
「…ポートマフィア、本部___着いたぞ」
--- 「…あ、手前ら、今まで何して…ッルイスさん!?」 ---
着いた先にはちょうど中也君がおり、僕がいることに驚いているようだった。
まぁ、あれ以来全くだったもんね。
というか、僕がいると思わないよね普通。
とりあえず、彼の手にあった数枚の書類がひらひらと床へ広がったので拾おうかと思った。
でも中也君って幹部だし、重要そうな書類だと後々面倒になる。
少し申し訳なく思いながらも、その惨状を眺めながら軽く挨拶をすることにした。