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ウマ娘〜オンリーワン〜 05R
05R「みんなの分まで」
牧村「アルノ、先週のレース、よくやった!素晴らしい走りだったよ。――――というわけで、次走は――」
アルノ「ホープフルステークスですよね!」
牧村「えっ、覚えてたのか?」
アルノ「もちろん!私、ホープフルステークスに出たくてエリカ賞頑張ったんです!」
牧村「そうか!じゃあ、よかったな!晴れてお前はGⅠデビューだ!」
アルノ「はい!」
牧村「じゃあ、改めて説明するが、ホープフルステークス―――ジュニア級限定のGⅠレース。距離はエリカ賞と同じで2000メートル。場所は中山レース場。これもエリカ賞と同じで全く経験したことのないレース場だな。日付はというと、年末。今年最後のGⅠレースがホープフルステークスだ。ホープフルステークスまであと二週間ちょっと。エリカ賞のときと比べて大分余裕はない。」
アルノ「なるほど………」
牧村「それから、アルノにちょっと見せたいものがある。ちょっと待ってな。」
そして、トレーナーさんは奥の方の部屋に消えていった。そして、しばらくし、布で覆われた“何か”を持ってきた。
そして、トレーナーさんはその布を剥がす。
それは、マネキンに着せられた洋服だった。
ワイシャツにリボンが通され、結び目に赤い星の飾り。
そしてさらにその上にはクリーム色の半袖セーターが着せられ、そのさらに上には焦げ茶色の袖無しロングコートが着せられていた。
下は短いズボン。そしてオレンジ色のハイソックス。
靴はオシャレな茶色の膝下まであるロングブーツだった。
とてもオシャレだが、普段着としては大分派手だ。一体何の服だろう。
すると、トレーナーさんが口を開いた。
牧村「これはアルノの“勝負服”だ。」
アルノ「えっ……勝負服?……これが、私の……」
勝負服。それは、GⅠレースでのみ着ることが許される特別な服。
一人一人が違う個性がある勝負服。
それを一生のうちに一回でも着用してレースに出走することができるウマ娘はごくわずか。
そして、その勝負服で勝利を掴めるウマ娘はその中でもひと握りしかいない。
そんな勝負服を、私は着ることができるのだ。
この勝負服を私が着るんだ………
牧村「どうだ?気に入ったか?腕のあるデザイナーに発注してつくってもらったんだが……」
アルノ「はい!とっても気に入りました!」
牧村「そうか、それは良かった!」
「二人とも、何してるのー?」
振り返ると、先輩たちの姿が見えた。
ショート「あっ!その服……もしかしてアルノの?すっごーい!かわいい~!」
ブリザード「アルノちゃんにピッタリだね!」
牧村「おい、お前たちまたサボって……」
ショート「休憩中だからいいんですよ〜っ!」
マリー「いいなぁ。あたしだってズボンが良かったのに。スカートじゃ動きにくい……」
牧村「そんなこと言って、もう5年か?そのくらいずっと世話になってるじゃないか。」
マリー「まあ……今さら変えたくはないけど…案外気に入ってるし。」
サン「そんなぁ……私なんて秋ぐらいに勝負服つくってもらったばかりなのに……」
ブリザード「GⅠ、惜しかったねぇ。だって……3着でしょ?初めてで3着はすごいよ!」
マリー「今のところ、今年入ってずっと3着以内だもんねぇ。さっすがあたしの後輩!よしよ〜し。」
サン「こ、子供扱いしないでください!」
――――すごいなあ。
みんなレースでいい成績を残して。
私も、そんなウマ娘になりたい―――――
=====
実況「―――今年も残すところあとわずか。そして、今年のGⅠレースも、このホープフルステークスで、締めくくります。衝撃の有マ記念から数日。中山レース場は今日も大歓声に包まれております。」
とうとう、この日がやって来た。
やはり、流石GⅠという感じで、重賞のときよりも比べ物にならないほどたくさんの観客がいた。
レースに出走するウマ娘は、16人。フルゲートだ。
そして、私は4枠8番。ちょうど真ん中あたり。
勝負服は、ピッタリでとても着心地が良かった。そして、冬のこの季節でも十分暖かかった。
実況「注目ウマ娘は、2番の1番人気、カナタサンセット。東京スポーツ杯ジュニアステークスを圧勝。3戦3勝。未だに無敗です。――――そして、2番人気は13番・ライトフラワー。オープン戦の萩ステークスを制しました。3戦2勝。2着1回。―――そして、3番人気は10番・アルノオンリーワン。こちらも3戦2勝。前走のエリカ賞を3馬身差つけて優勝。浮き沈みはありますが、こちらも実力のあるウマ娘です。」
今回も3番人気。16人中で3番目に人気があるのだ。
みんなが、私に期待してくれている。
だから、その期待に応えられるようにしなければ―――
周りの同期はみんな重賞、ましてやGⅠを勝っている。
だから、私もそれに続けるようにならないと―――
実況「―――枠入り順調。最後に16番・カヤノマーチが入ります。2戦1勝。前走の未勝利戦を勝利しました。―――体制が整いました。希望に満ちたスタート。ホープフルステークス―――」
「ガシャン!」
実況「スタートしました!まずは先行争い。アルノオンリーワンが制しました。デビューから3戦全て逃げです。そして2番手は同じく逃げの16番・カヤノマーチ――――−」
トレーナーさんに教えてもらった。
中山2000mのコースは、最初と最後に急な坂があるから十分なスタミナが必要だ、と――――――
私は、いつものように大逃げで後続を突き放した。
先頭の景色―――私が一番最初にみることができる景色。
先頭で受ける風は、ひんやりしていて、とても気持ちが良かった。
体力もまだちゃんとある。
すると、いつの間にかスタート地点へ戻っていた。
実況「アルノオンリーワン、先頭!第4コーナーを曲がり、最後の直線です!」
よし、ここだ!!
一気に足を踏み込む。
ラストスパート!
私は一気に加速する。
足音は聞こえない。まだみんなを離しているようだ。
そして、はるか遠くに、ゴールが見えた。
実況「アルノオンリーワン、先頭!4バ身差です!しかし、徐々にリードがなくなってきている!残り200m!そして坂をのぼる!」
坂は、急できつかった。そして、何とかのぼりきったときに、気がついた。
たくさんの足音が聞こえる……
高いハイヒールの音、太い厚めのブーツの音、スニーカーの音、たくさんの音だ。
実況「ここで、2番のカナタサンセットが上がってきた!届くか、届くか!いや、余裕だ!そして2番手にライトフラワー!差を詰めていく―――だが、先頭は依然とカナタサンセット!カナタサンセットだ!残り100!大逃げのアルノオンリーワンは集団の中に沈んでいった!先頭はカナタサンセット!カナタサンセットだぁーっ!カナタサンセット、見事1番人気の期待に答えました!2着はライトフラワー!」
ゴールを通り過ぎた。脚を止める。
ただ、呆然とスタンド前のモニターを見つめる。
私は、何着なのだろう……
しかし、1番手ではないことは確かだ。
凄かった。物凄い末脚で、あっという間に過ぎて、勝ちを持っていかれた。
みんな凄かった。私の自慢のスタミナも、あの実力のある人たちと比べれば、無力に等しかった。
やがて、結果が確定した。
1着は2番。2着13番、3着5番―――私の番号はなかった。
モニターに表示される着順は、5着まで。その中にも入れなかった。
こうして、私のはじめてのGⅠは、何も結果を残せずに終わった。
=====
「先頭は、アルノオンリーワン!圧勝ーっ!」
「やっぱすごいねぇっ!」
アルノ「もう……何回見てるの―――お母さん!」
母「だってー。かっこいいじゃん!無限に見ても飽きないわ!」
ここは実家。そう。今は冬休み。そして、今年も今日で終わりだ。
アルノ「だからって、本人の前でそんなに見せられても恥ずかしいじゃん!……それに、この前のホープフルステークスだって、12着だったし……」
すると、お母さんは突然私をぎゅっと抱きしめた。
母「そんなことない。アルノはとーってもすごい!この前、話したの覚えてる?―――お母さんも、前トレセン学園に通ってたこと。……お母さん、全然勝てなくてね……おまけに怪我までしちゃって。チームもトレセン学園もやめちゃったんだ。だから、1勝でも勝っただけで、お母さんは、すごいと思う。ホント、アルノは私の自慢の娘だよ!」
アルノ(お母さん……)
お母さんのその言葉に、私は元気づけられた。
そうだ。勝つことだけが凄いわけじゃない。
挑戦できる|切符《チケット》を持っているだけでも、凄いんだ。多分。
頑張ろう。私はまだまだこれからだ。
お母さんみたいに夢が叶わなかった人たちの分まで―――――
〈年明け〉
年が明け、今年からクラシック級。
牧村「次走は―――アルノにはもう一度重賞で走ってもらう。だが、あまり良い結果を出せなければ、今後は条件戦で頑張ってもらう。その場合、皐月賞は無理だと考えた方がいい。」
皐月賞ーーークラシック三冠の最初のレース。
なら、勝たなければ行けない。
私の今の目標は、クラシック三冠に出ること。一つでも欠かしたくない。
牧村「大丈夫。アルノならきっとやれるさ。信じてる。」
トレーナーさんに、肩をポン、と優しく押される。
私は、それがありがたかった。
暖かかった。そんな、トレーナーさんのためにも勝ちたい。
=====
クリス「へぇー!アルノちゃんもクラシック路線なんだー!あたしと同じだね!」
アルノ「えっ!そうなんだ!」
クリス「うん!あ、あとユニバちゃんも一緒だよ!」
ユニバ「うん……私も、出るんだ……」
アルノ「そっかー!ユニバちゃんクラシック三冠ウマ娘になることが夢って言ってたもんね!」
マロン「へえーっ!3人はクラシックかー。マロンちゃんはティアラ路線にしようと思ってて。ね、ガーネットさんもそうでしょ?」
ガーネット「……ああ。新潟ジュニアステークスのあと、サウジアラビアロイヤルカップはアスカに1本とられ、デイリー杯ジュニアステークスも散々な結果で……だが、次は勝ちたい。大事なレースがあるんだ。ティアラ路線に。」
アルノ「きっと、ガーネットさんなら勝てる。その大事なレースだってきっと。」
ガーネット「そうか……ありがとう。」
「――――うわあぁぁああん!!!」
教室のどこからか誰かの叫び声か泣き声のような声がした。
みんな驚いてその声の方に一斉に振り返る。
グッドちゃんだった。いつも自信満々でハキハキとしたグッドちゃんが、今までで一番暗い顔つきでじっとこちらを見ていた。
グッド「すごいな……みんなは。あたしなんて、あたしなんて、まだ未出走なのにぃーっ!!」
クリス「えっ!!そうだったの!」
グッド「じ、実は……そうなんだ!トレーナー殿に、あたしは走りの成長が遅いから、デビューはクラシック級になってからになってしまう、って!みんな重賞もGⅠも出走して、勝った人もいて……キラキラ輝いているのに、あたしだけまだなにもやれてない!悔しい……世界一のウマ娘になりたかったのに!」
私は、驚いた。
あのときの、入学して最初の模擬レースでみんなよりも遥かに強くて、私よりも遥かに小柄なのに、あんなにもかっこよくて………
でも、目の前にはあのときのように胸を張っているグッドちゃんの姿はなく、ただ弱々しく背中を丸めて涙ぐんでいるグッドちゃんの姿だけがあった。
すると―――――――
「ポンッ」
グッドちゃんの肩を、誰かがポンと叩いた。
――――アスカさんだ。小柄で同期の私たちで1番背の低いグッドちゃんと、背が高くスラッとした体型のアスカさんは、並ぶと物凄い身長差で違和感がある。
アスカ「そんな泣くことないじゃん。ほらグッド。君もNHKマイルカップ、出るんでしょ?あたしと一緒に勝負しようよ。大丈夫。まだ4ヶ月以上もあるよ。」
グッド「アスカ殿……」
そうか、2人はNHKマイルカップに出たいんだ………
グッド「みんな、すまない。みんなが重賞やGⅠレースについて楽しそうに話しているのをみてて、我ながら恥ずかしいが、嫉妬して感情が爆発してしまった!心配させて申し訳ない……」
グッドちゃんは、制服の袖で涙を拭った。
グッド「しかし、アスカ殿には勝つ!GⅠそして重賞それぞれ1勝ずつのあたしたちの中で1番強いアスカ殿には!」
グッドちゃんは、さっきの弱気さはどこへ行ったのか、いつもの自信満々の表情に戻っていた。
そう。アスカさんは去年のサウジアラビアロイヤルカップ(GⅢ)と、朝日杯フューチュリティステークス(GⅠ)を制したのだ。本当にすごいと思う。
アスカ「いや、それは否定しないけど……」
ガーネット「しないのかよ。」
アスカ「でも、GⅠと重賞それぞれ1勝ずつしているこの同期のなかで1番強いウマ娘は、あたしの他にもいるよ。」
そのアスカさんの言葉に、私たちはハッと思い出し、1人のとある人物に視線を向ける。
その人は、私たちの視線、ましてや今までの会話には目もくれず、静かに席に座って本を読んでいる。
グッド「そうか!アスター殿も確かに強いな!」
そうだ。アスターちゃんもアルテミスステークス(GⅢ)と阪神ジュベナイルフィリーズ(GⅠ)を制している。
アスター「―――あの…そんなに見られたら、読むのに集中できないんだけど。」
観念したのか、やっとアスターさんは本を読む手を止め、私たちを軽く睨みつける。
しかし、グッドちゃんはそれに怯むことなく話しかける。
グッド「すまない!アスター殿。悪気はないんだ……」
そして、もう一人グッドちゃんみたいな勇者が現れる。
マロン「アスターさんって、どこの路線に進むの?」
アスター「ティアラ。」
再び本を読み始めたアスターさんは、こちらを見もせず淡々と言った。……いや、淡々と言うほど長くはないのだが。そして、言葉に余計なことを一切入れなかった。
マロン「そっか〜やっぱり!アスターさんはティアラって感じしてたんだよね〜っ!」
マロンちゃんはそれでも怯むことなく、話を続ける。
そして後々、話して分かったことなのだが………
2人―――クリスちゃんとユニバちゃんもきさらぎ賞に出走するらしい。
もう早速クラシック組同士で被るなんて…
同期の人と同じレースを走るのは初めてだ。
でも、勝ちたい!
=====
牧村「ほら、アルノ。きさらぎ賞の枠順が確定したぞー。」
アルノ「本当ですか!」
牧村「えーっと、アルノはー。6枠9番だって。おっ!2番人気!」
トレーナーさんは、タブレットを片手に操作する。
2番人気……ここ最近では高い方だ。
牧村「えーっと、一番人気は、8番・ユニバースライト。3番人気は、12番・クリスタルビリー。特に人気なのはアルノ含めてこの3人だな。」
2人共、十分強いのは知っている。だからこそ、勝てるか不安になってくる。
だけど、だけど――――|きさらぎ賞《これ》を勝たないと皐月賞には出走できない。
私は覚悟を決めた。
2人に挑む覚悟を―――――
-To next 06R-
~キャラ紹介04~
アルノの先輩たち
マリーノンタビレ(Marry Nontabile)
身長…162㎝くらい
勝ち気でしっかり者のウマ娘。体格がよく、とても器用で、何をやってもそれなりに上手く出来る。でも、勉強は苦手。芝の長距離、中距離が得意。GⅠ3勝、重賞も何勝かしてる。イメージだとジャパンカップや大阪杯辺り。高等部三年。
ショートサマー(Short Summer)
身長…159㎝くらい
陽気で活発なチームのムードメーカー。女子力が高く、チームのオシャレ担当。マイルが得意。GⅠ1勝。(マイルチャンピオンシップ辺り?)重賞は3勝。全部マイル。高等部1年。
ブリザードシー(Blizzard Sea)
身長…158㎝くらい
ほんわか能天気なチームの癒し担当。ダートが得意で、地方レース(ローカルシリーズ)も含めて、GⅠ2勝。(JBCレディスクラシックとフェブラリーステークス。重賞だと関東オークスも勝ってそう。)高等部1年。特にショートサマーと仲が良い。
サンエレクト(Sun Erect)
身長…150㎝くらい
気の強いチームの末っ子キャラ。誰にでも敬語を使う。子供扱いされるのが嫌い。低身長なのを気にしてる。ストイックで十分な才能もある。絶賛活躍中の期待されるウマ娘。中距離、長距離が得意。マリーノンタビレに憧れてチームに入ったのはここだけの話。語呂が悪いので「さん」付けされるのは嫌い。中等部三年。