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終焉の鐘 第十五話
この世界は、嘘で成り立っている──
誰もが嘘を並べ
誰もが嘘を信じ
誰もが嘘を愛す
この世界は、嘘で成り立っている──
誰もが嘘を並べ
誰もが嘘を信じ
誰もが嘘を愛す
中国裏社会の帝王
【闇雲】
彼の率いる|組織犯罪集団《マフィア》
【|终焉的钟《終焉の鐘》】
彼らもまた、
嘘を信じ
嘘を愛し
そして
闇を愛すものだった
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第十五話 ~氷の降る夜~
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その日は珍しく、大雪だった。
もうすぐ、紫雲が失踪してから1年が経つ2月のとある日、氷夜は1人大きなため息を吐く。
幹部の人間が、クズすぎる
紫雲の代わりとしてアンダーボスに上がった氷夜の後を継いだのは、レモン。てこの代わりを継いだのは結局七篠。そして、Lastの所を継いだ青年に、大きな問題があった。
「会話ができない──」
氷夜はまた大きくため息を吐く。Lastの所を継いだ新しい幹部こと、狛犬おなさは、最近、闇雲の隠し子という名を持ち始めた。
闇雲が影でこっそり鍛え上げていた青年──
それがおなさだった。黒とピンクのメッシュの髪に、吊り目気味のピンクの瞳。そんな彼に、氷夜は毎日悩まされる。
闇雲が育てていただけあり、実力は申し分ない。ただ、終焉の鐘に正式に入ってから1日で幹部の座に着いたことに嫉妬している輩も多い。それだけでなく、彼はとても人を嫌っている。いつも行動は1人でし、合同任務は全て断る。そんな青年だった。
そして氷夜は、たまにこう思うのだ。
“自分が闇雲の所に残ったのは正しかったのか──”と
氷夜はのんびりと大雪の中歩き出した。そこで。1人の青年とすれ違いふと足を止める。
「紫雲様──?」
そんなわけはないと、自分の目を疑った。後姿を見てみるも、紫雲らしき人はいない。何かの見間違い──そう考えた氷夜だったが、彼は方向を変え、今しがたすれ違った人物を追いかける。そしてその人物は、人気がないところに来てから振り返って笑った。
「尾行が下手だよ──?氷夜」
無邪気に笑うその人物は、雰囲気こそは全く違うが、氷夜は確信する。
この人は、紫雲様だ──と。
「さて──それじゃあ、そろそろ蹂躙を始めようか」
不気味に笑う紫雲に、氷夜は恐ろしいくらいの寒気を感じる。彼は、微かに微笑んだ────
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「闇雲様、お客さまです」
幹部会議の日、氷夜はそう言うと、静かに闇雲に銃口を向けた。咄嗟にレモンと七篠とおなさは反応し、銃口を向け返す。
「相変わらず不気味ですね‼︎」
「お久しぶりです闇雲様」
そして後ろから現れた2人に、レモンと七篠は目を見開く。黒雪とLastが、そこにはいた。闇雲から冷たい殺意が感じられる。それを見て、孌朱は仕方なさそうに銃を取り出し、闇雲に向けた。
「闇雲様──俺は、自分の首領と、愛してやまない弟。どちらを裏切るかと言われたら、この選択をします」
闇雲に向けて冷たい瞳を向けた孌朱。現状、数的には氷夜側が有利になる。
「それが本気なら、遠慮なく僕は君たちを殺すよ」
闇雲は無表情のままそう言った。
「今、現状で──僕にはいくつかの選択肢があると思うんだ」
突然、上から声が響く。そこには、地獄人形としての姿をした紫雲がいた。闇雲はそれを見て軽く目を見開く。
「一つ目──裏社会の帝王には敵わないと諦めて降参し、そっち側に戻る」
不気味に微笑み、紫雲は続ける。
「二つ目──必至に抵抗し、君に無理やり抑え込まれる」
紫雲は静かに下に着地すると、楽しそうに微笑んだ。
「残りのやつはなんだと思う──?地獄傀儡」
紫雲のその言葉に、闇雲と七篠は動揺する。七篠は今にも殺しに行きそうな表情で闇雲を見つめた。
「他の選択肢なんて──存在しない」
「そっか。屑洟兄さんでしょ?傀儡が仲良くしている地獄偶人は。卑怯な物だよね。僕には自殺したと見せかけて2人でコソコソ仲良くするって」
紫雲はいつもの冷たい雰囲気などは微塵も感じられない独特な雰囲気で笑った。
「君が裏社会の帝王って名乗れるのは──今日までだ傀儡」
気づいた時には、闇雲の髪の色は変わっている。正しく言えば元に戻っている。黒髪の、オレンジの瞳。地獄傀儡の姿になっていた。
「【地獄人形】──全てを捻り潰し地獄に堕とす」
「【地獄傀儡】──全てを操り殺し地獄に堕とす」
2人の声は不気味に被った。Lastたちは呆然とそれを見つめる。見えなかった。2人の動きが見えないのだ。無慈悲な発砲音が鳴り響く。気づいた時には、紫雲は床に押し倒された状態で笑顔で闇雲に銃を向け、闇雲は紫雲を押し倒した状態で無表情で紫雲に銃を向けた。
「どうした──?結局最後になったら発砲出来ないの?」
紫雲の煽るような声に、闇雲は引き金に力を込める。
「「っ────────」」
2人の苦しそうな声は同時に聞こえ、お互いが遠くに弾き飛ばされた。どちらの心臓からもたれる体力の血。2人は同タイミングで発砲した。
「少し来るのが遅かったのかな──?」
紫雲と闇雲の意識がなくなったところで、1人の青年がその場に現れる。地獄偶人と、地獄傀儡の姿をした、一度紫雲とLastに接触している1人の青年だった。
「空木。傀儡にこれを飲ませておいて。人形は俺の部屋に。傀儡はどこでもいい」
偶人は空木という青年にそう声をかけると、紫雲に口移しで何らかの液体を飲ませる。偶人が飲んでいるところから見るに、毒物ではない。そうみんなは判断する。
「さて。俺はそこまで暇じゃあない物でね。さっさと片付けよっかな」
偶人は静かに妙な形をした紙を取り出す。そしてそれをヒラヒラと振った。
「【地獄偶人】──全てを探り尽し地獄に堕とす」
偶人の不気味な声と同時に、氷夜は今までに感じたことのない痛みに襲われる。
「っ⁉︎」
視界がぐらりと揺れるのがわかり、その場に倒れ込んだ。周りを見ると、他の面々も同じような状況だった。
「うーんまだ納得いかないなぁ。もう少し一撃で死ぬように改造した方が使いやすいかなぁ?あーけどなぁんーどうしよ」
ぶつぶつそう呟く不気味な偶人を氷夜は重くなる瞼を必死に開けて睨みつけた。
「ん、なんで氷夜くん気絶してないの?」
そして偶人と目が合う。氷夜は嘲笑うような笑顔を浮かべた。そして何も言わずにそっと目を閉じる。
「あー思い出した。氷夜くんか。そっかそっか。あの氷夜くんか」
偶人は1人で納得すると、気絶した氷夜を足で軽く蹴り飛ばす。
「まぁどうでもいいか」
偶人は笑顔でそう呟くと、その場を去っていった。