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絶叫パラダイス
持ち上げているマンホールの蓋を、地面に置くことはできず、ひっくり返すこともできず、かと言って手を離して落とすこともできず、僕はその場で右往左往した。
できることといえば、蓋を揺さぶることくらいだった。
それを見守っている皆も、箒を持って右往左往、周りを見回して右往左往、何も持たずに右往左往、息を呑んで右往左往。
かくしてそうして数十秒。
必死に揺さぶっていた甲斐があったのかなかったのか、———《《あいつら》》が落ちてきた。
「「「ギャー!!!!」」」
何人分なのか分からない絶叫が、小屋の中に響き渡った。
皆、悲鳴を上げながら退避して、飼育小屋の出口付近に密集する。
僕も、忍者もびっくりの早技でマンホールの蓋を地面に置いてその場から飛び退いた。
一匹目。
マンホールの中に入っていく。
誰もそれを追おうとはしなかった。
二匹目。
———なぜか出口に密集している僕たちのところに突進してきた。
もちろん、こっちは大騒ぎだ。
「ゴキブリゴキブリゴキブリ!!!!」
「ぎゃこっち来るんだけど!!!」
「なんとかして誰かなんとかしてー!!」
「ヒー!!! ギャー!!!」
鼓膜が破裂するかという絶叫のなかで、パニックになって てんやわんや。
そのとき、一人の女子がスコップと箒を|携《たずさ》えて前に出た。
確か、普段はおとなしい子だった。
見事な手|捌《さば》きで、箒でゴキブリの動きを封じ込めると、箒の中でモゾモゾと動くそいつ目掛けてスコップを振り下ろした。
その瞬間、皆の悲鳴が止んだ。ただ少しだけ、ざわざわとしている。
何度も何度も何度も何度も、彼女はスコップを振り下ろした。そいつの動きがなくなるまで。
そして、ついに息の根を絶やすことに成功する。
誰かが塵取りを持ってきて、彼女に渡す。やっと死に絶えてくれたそいつを塵取りに掃き入れ、ゴミ箱に捨てた。
わあっ、と そこら中から歓声が上がる。
世界を救った勇者を見るような目で、皆彼女を見つめていた。
とにもかくにも、これで《《一つの》》ゴキブリ騒動が幕を閉じた。