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●第一奏 解放と自由の束縛⑴
「…おはよう、お母さん…」
「おはようございます。|律《りつ》さん。」
漫画で見る未来都市のようなこの街に、一風変わった家族がいる。
「申し訳ございません。まだ朝食ができていないので、テレビでも見てお待ちください。」
「…ありがとう」
|山越 律《やまごえ りつ》。人間とロボットのハーフだ。
人間の父親は事故で死亡。アンドロイドの母親にロボット手一つで育てられた。
律は、愛情に飢えている。
ロボットである母親に、子供に注ぐ愛情はプログラムされていない。
そして、小学校6年生の律に、プログラミングをする力があるわけがない。
律としては、母親ではなく召使と暮らしているような気分なのだ。
小さい頃から、言わないと抱きしめてくれることもなく、笑うこともない。
そんな彼女に、律は寂しさを感じていた。
リモコンにスイッチを入れると、番組表から自分の見たい番組を探す。
何せ朝だ。興味のある番組は一欠片もない。
仕方ないのでニュースを選択する。
『───だということです。次のニュースです。』
律はニュースに関心は一切ないが、録画しているアニメも全部見切ってしまった。
『本日未明、セイル地下都市のAI研究所がなんらかの不具合で爆発し、中に保管されていたロボットが逃げ出した模様です。この件について政府は───』
『政府の調査隊が入りますので〜え〜、近隣住民の方は〜、い、今すぐ避難を〜え〜、お願いします〜』
セイル地下都市とは、律の住んでいるレイブ住宅地から西へ4km行ったところにある地下都市だ。
東京並みの都会っぷりで、地下にあるとは思えない都市である。
「…お母さん、AI研究所が爆発したって聞いたけど、大丈夫?」
自分の耳に生まれた時からついている尖った機械を触りながら、母親に尋ねる。
ところどころが機械なので、たまに壊れることがある。
「…失敗作が暴走さえしなければ、大丈夫です。」
失敗作、と口にした母親の声色は、いつもにも増して冷たかった。
これ以上聞いてはいけない気がしたので、そっか、と返事をしてぼんやりとテレビを見つめた。