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〖それぞれの邂逅〗
「なぁ、これ...どこに着くんだ?」 (ミチル)
キノコが跳ねる小道。ミチルの先をぐんぐんと進むイトは何も答えない。
やがて、ゲコゲコと聞こえてくる場所へ近づいていく。そして小さな家が見えてきた辺りでイトは振り返った。
誰もいなかった。
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どこから迷ったのかキノコの跳ねない小道を進むミチル。どんなに呼んでも誰も答えない。
その先に白兎に乗られたボサボサ髪の男性を瞳に捉えた。
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真っ黒な蛇が蠢く。こちらを眼中にもないようにただ、食べ物として認識したものを貪り続ける。
「〖アリス〗、もう行かないと」
チャシャ猫が急かす。
「〖アリス〗...これは必然だ、君はもう知ってるはずだ」
「...ねぇ、あの子が知ってるのは分かったけれど、僕は知らないよ?」 (光流)
チャシャ猫の言葉に光流が二度目の同じことを言うも、その問いは返されることなく
「お前は〖アリス〗じゃない」
低く声で断言するチャシャ猫の言葉が続いた。
よく見れば毛は逆立ち、尻尾は揺れている。機嫌が悪いのだと見て分かる。
「...〖アリス〗、〖アリス〗って...なんなのさ?あの子は別に名前があるよね?」 (光流)
「〖アリス〗だよ。向こうも〖アリス〗だ。〖アリス〗は二人で一つの形だ。
君だって、そうだ。二人で一つの〖アリス〗の友人だ」
「僕は一つで一人だよ。何言ってるの?」 (光流)
「だから...」
一人と一匹の喧騒が蛇を瞳に映す女性の後ろで続く。凪はふと、振り返ってその一人と一匹を見た。
腰を屈めて視線を合わす光流と毛を逆立てるチャシャ猫を見た。
遠くのモデルのような顔立ちをした男性を見た。
「...あれ、誰かしら」 (凪)
そう呟いた時から、言い争う二人がそれを見るのに時間はかからなかった。
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これまた優雅な客室へ誘導される。何もかもが美しく彩られ、飾られている。
まるでそれを強調するような作りだが、部屋に入った女性は負けず劣らず、馴染み切っている。
「その座椅子にお座りになって下さいな」
ひび割れの目立つ花柄のティーポッド頭の貴婦人が座るように促した。
「失礼します」 (結衣)
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「...何故?...は、分かりきってますね...」 (リリ)
優雅な客室から出た廊下に壁へ背をもたれるリリが虚空へ呟く。少し下を向き、かりかりとした音でふと顔をあげる。その顔は、やはり少々馴染めていない。馴染めていないというよりは、その顔が大きく周りが掠れて見えていた。
かりかりとした音は爪を窓に引っ掻く音のようで、音の主は間違えるはずもない薄汚れた猫のダイナがいた。
「...ダイナ?何してるんですか?」 (リリ)
窓を開け、顔が反射するほど磨かれた廊下にダイナが足を入れた。
「ティーはいないだろうね?」
「いませんけれど...玄関から入ってこなかったんですか?」 (リリ)
「僕がここへ正面から入ってみなよ、後で摘まみ出されるだけさ」
「...そりゃあ、どうして?」 (リリ)
「君さ、まだ分からないの?」
「...いえ、結衣が気づいているかは不明ですが...うっすらとは分かります」 (リリ)
「......ふぅん」
その言葉にダイナは背伸びをして、仕草だけは優雅に訊き返す。
「じゃあ、言ってみなよ。間違ってたら教えてあげる、ティーはこの廊下にいないから」
「...〖美しさ〗を強調している...のでは?」 (リリ)
「大正解...と言いたいけど、執着してるの方がいいかもね」
「なるほど...」 (リリ)
「正解が分かった君に教えてあげるよ。
ティー...貴婦人は〖完璧な美しさ〗を好む。周りが掠れて見えるほどの美人より、周りと馴染んで周りを武器にしてしまう美人を好む。
しかし、その美人でさえも脆かったりすると...作品としては成立しにくい為、再構築することがある。
それを聞いて、君はどう思う?」
「話が長いと...」 (リリ)
「............」
「いえ、とにかく危険なことは分かりました」 (リリ)
「そうだね。じゃあ、頑張ってね」
ダイナが尻尾をピンと立てて、リリの足元にすり寄った。
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「う~ん、俺も知らないなぁ」
チャシャ猫が遠くの人を見て、結論出した。
「嘘でしょう?てっきり、何でも知ってるものだと...」 (凪)
「俺は博識屋じゃないよ、〖アリス〗」
「だから、〖アリス〗って...」 (光流)
なんなんだ、と言おうとしたところで、その遠くの人が息を大きく吸い込むように口を開いた。
赤髪にポニーテールをした緑の瞳にモデルのような顔立ちが特徴的な男性だった。