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僕の希望をキミにあげるから、キミの絶望を僕にください。
あなたは大切な人が亡くなった時、どうしますか?
ここでの希望と絶望の読み方を幸運と不幸とします。
「ごめんさない。」
今年、告白されて4回目。
一度目と二度目は夏、三度目は秋、4度目は今の冬だ。
嬉しいけど、僕にはもったいない数。
勉強も中途半端、スポーツも中途半端な僕をどうして好きになるのだろう。
いや、きっと好きだと思い込んでいるだけで、本当の心の底は別に大したことじゃないんだ。
誰もいない夕方の廊下にたった二人でいるのはこちらも向こうも気まずい。
さっさと解散して家に帰ろう。
「では、僕はこれで。赤川さんがこれから良い恋が出来ると信じてます。」
膝より上までのスカートをギュッと握りしめた彼女を門まで送った。
この学校の制服は二種類で、女子はスカートの短いセーラー服とスカートの長いジャンバースカートタイプがある。
ほとんどの女子は前者だが、僕から見たら後者の方が無難で良いと思っている。
後者の人は滅多にいないが、僕のクラスに一人だけいる。
それは|佐野 汐音《さの しおん》。
クラスではいつも一人で本を読んでいて、あまり他人と話さない。
けれど、たまに窓の外を眺めている姿を見ると、ラベンダーベージュの長い髪と青碧色の瞳が光に照らされて美しく見える。
僕はそんな彼女に恋をしている。
今まで恋なんかしたことない僕が佐野さんに恋をしたキッカケは、図書委員の仕事で図書館の見回りをしていた時。
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幼馴染の美怜にとある本を頼まれて探していた。
やっと見つけたと本に手を取ると、本に触れたはずの手は小さくほっそりとした手に触れていた。
「あ、すみません。どうぞ。」
手を辿っていくと、そこにはハーフアップをした佐野さんだった。
最初はジャンバースカートを着ていて珍しいと思うだけだったが、その後に取ろうとした本について話し始めた。
話すうちになんだか静かな人だと思っていたけど、とても可愛らしくて熱心な人だった。
どうして他の人と話さないのか聞いた。
「私、あまり人と話すのが得意じゃないんです。今は望月さんが私の好きな本の事で合わせてくれているから話しやすいだけで…」
もじもじとしているけど、頑張って話そうとしてくれていると知ったとき、僕の心にドクンと『恋』が芽生えた。
憧れでも、憎くも、何でもない恋。
この気持ちは、佐野さんに向けてあるのだと段々と気づいてきた。
「そういえば、どうしてこの本を取ろうと思ったのですか?」
「美怜に持ってきてほしいって頼まれてね。自分で取ってきたらいいのに。」
佐野さんは少ししょんぼりとして言った。
「そう…じゃあ、早く行ってあげた方がいいんじゃないかな。」
そう言われてからは覚えてない。
初めてできた好きな人を、悲しませてしまったから。
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次の日。
赤川さんは元通りに友達と仲良く過ごしていた。
僕は美怜に呼ばれ、教室を出た。
「|渡央弥《とおや》、ちょっと話したいことがあるんだけど…」
「何?」
急に変な空気になった。
僕はすぐに昨日と同じ空気だと勘づいた。
「私たち、幼馴染っていう関係変えたくない?」
「それはどういう…」
「私、ずっと前から渡央弥の事が好きだったんだ。だから、幼馴染の関係を恋人に変えない?」
やっぱり告白だった。
美怜とは昔から仲が良くて、よく一緒に遊園地などに行っていた。
けれど、どれだけ一緒にいる時間が長くても僕の恋心は芽生えなかった。
僕が好きなのは佐野さんだ。
美怜を振るのは少し可哀そうだけど、本当の気持ちを伝えなければ。
「ごめん美怜。僕は美怜との関係はずっと幼馴染でいたい。それに、僕は佐野さんが好きだから。」
「そっか…汐音か。初めて知った。…残念だけどやっぱりこのまま幼馴染でいてもいいかもね。」
その時、教室の扉がガタンと鳴った。
驚いて振り返るとそこには顔が赤くなった佐野さんがいた。
佐野さんは混乱していてガタガタと震えている。
「えっ汐音⁈なんでここにっ」
「いや、けけ決して盗み聞きしてたわけじゃないよ。ただこの書類を職員室にも、持っていこうと…」
すると美怜は佐野さんの肩を支えてこっちに連れてきた。
「渡央弥、汐音、ファイト!」
そう言って美怜は振られたことを気にせずに教室に戻っていった。
「あ…望月さん、美怜ちゃんの事が好きなんだと思ってた。」
「僕は…僕が好きなのは佐野さんなんだ。あの、佐野さん。僕は君の事が好きです。もし、良かった、僕と付き合ってほしい。」
佐野さんは口を両で隠して言う。
「私も、望月さんが好き。皆から人気で憧れの存在の望月さんを私は好きでした。私でいいなら付き合いたい。」
佐野さんは今まで見たことのない優しくて可愛い笑顔で言った。
「じゃあ、よろしくね。えっと汐音って呼んでいいかな?僕も渡央弥って呼んでもいいから。」
少し恥ずかしくなりながら言った。
「ぜ、全然良いよ。えっと…渡央弥。」
「うん、汐音。僕は君を幸せにするから。」
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汐音と付き合ってから2年が経った。
今では幸せに過ごしている。
汐音も段々と人とよく話せるようになってくれた。
僕らは今、街でデートをしている。
信号はまだ赤。
恋人繋ぎで待つ僕らの姿は他の人から見たらどう見えているのだろう。
今日はとても寒く、周りにはあまり人はいない。
柔らかいマフラーで包まれている汐音がとても愛おしい。
信号が青になり、パッポーパパポーと音が鳴り始めた。
道路を2.3歩程歩いた時だった。
右からブォーンと大きな音が近づいてきた。
振り向くとトラックが急発進してきていた。
運転手は寝ている。居眠り運転だろう。
「汐音、危ない!!」
そう言って僕は汐音を後ろに押した。
その後はどうなったかな。
確かトラックに引かれて、汐音が泣く姿が見えた。
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ドンッ
初めて聞く音がした。
咄嗟に渡央弥が私を庇ってくれた。
だけど、彼は代わりにトラックに勢いよく引かれ、道路に頭を強く打った。
周辺の車はすぐに止まり、周りの人たちも警察や救急車を呼んだ。
私はすぐに渡央弥の所へ向かった。
「渡央弥!!渡央弥!!大丈夫⁈起きてよ!!今救急車呼んでもらってるから、頑張って!」
頭を強く打っているため、頭から出る大量の血が道路に広がった。
必死に守って身代わりになってくれた渡央弥を見ていると涙が止まらなかった。
目を瞑り、息が荒い渡央弥を離すことはなかった。
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数時間が経った。
白いベッドであれからずっと目を覚まさない。
「渡央弥…お願い生きて。なんでもいいから死なないで。私の希望をあげるから、渡央弥の絶望を頂戴…」
ボロボロ零れる涙なんかお構いなしに冷たい渡央弥の手を握った。
すると渡央弥は奇跡のように目を少し開き、言った。
「だめ…だ。汐音が生きてくれなきゃ…僕の生きる意味が、ない。僕の希望を…キミに、あげるから...キミの絶望を僕が、貰うよ。汐音はこれからも…元気に過ごして、おばあさんになるまで…生きるんだ。」
「やだ、やだ!渡央弥、死なないで!!置いて逝かないでよ…」
「汐音、僕の分まで…生きて。僕に…汐音の未来を見せて。」
--- 汐音、愛してる。 ---
ポ、ポ…ポ……ポ………ピーーーーーーーーーーーー。
その後、彼は目覚めることはなかった。
彼を引いたトラックの運転手は居眠り運転で逮捕された。
私はずっと彼と最後に話した事と、最後に撮った写真を握っている。
--- 渡央弥、私も愛してるよ。今までも、これからも。 ---
---
「あぁ、もうすぐ70歳か...」
彼が亡くなってから丁度52年。
色々あったけど、今は結婚して、子供も産んで、孫も出来た。
旦那さんは私に本当の愛する人がいると知っていながら今まで支えてくれた。
「そういえば今日は汐音の彼の命日だったろう?」
「えぇ。お供え物を置いて来るね。」
旦那さんは微笑みながら私に手を振った。
墓場に来ると、少し苔の生えた『望月渡央弥』と書かれた墓石に水をかけ、パンパンと手を叩き、お供え物を置いた。
「渡央弥、お空で何してるかなー」
いつ、どこで死ぬか分からないこの世界で私は彼の希望の通りに長生きした。
そして事故になりかけた時も、病気になった時もいつも運よく生き残った。
それは代わりに彼が私の絶望をもって逝ってしまったから。
どうか、安らかに眠ってください。
私が逝った時にあなたの分の|希望《幸運》をちゃんと持っていくからね。
最後の「私が逝った時にあなたの分の希望をちゃんと持っていくからね。」について一応解説しておきます。
題名の「僕の希望をキミにあげるから、キミの絶望を僕にください。」の希望と絶望はこの世界で人に50パーセントずつあります。
望月渡央弥に希望(幸運)50パーセント絶望(不幸)50パーセント、佐野汐音に希望(幸運)50パーセント絶望(不幸)50パーセントあります。
そこで渡央弥は汐音の絶望(不幸)と渡央弥の希望(幸運)を交換し、お互いどちらかの100パーセントになります。
そのおかげで危険な目にあっても奇跡的に無事だったんですね。
初めての一話完結、どうだったでしょうか?
文章は上手くいかなかったですがこれからもよろしくお願いします。