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犬の町
悪夢のような光景である。
町じゅうに犬が溢れている。ある犬は吠え、ある犬は眠り、ある犬は喰べ、わがもの顔で町を闊歩している。
空は不気味にも黄色く濁り、雲は白茶けてまったく静止している。
水菓子屋の棚を漁っている犬が居る。杏を喰べ、桃を喰べ、そこいらじゅうに果汁を垂らして頭を振っている。
喧嘩をする犬たちも居る。声の限りに吠えたて、全身で敵意を表している。
眠る犬は永遠のように目を閉じ、心地のいい彼だけの夢の奔流に身を任せている。
犬、犬、犬、犬、犬。
雨が降ってきた。見上げると尿のような生暖かい雨であった。黄色い空から流れ落ちる黄色い雨。白茶けた雲は無関心に静止し続けている。
傘に雨が当たる音がした。
曲がり角の傍らに少女がいた。
白襟のついた黒いワンピースを花のように身につけた少女は、蝙蝠傘の下からじったりと私を見つめて居た。そして私に向かって指をさし、「犬畜生」と言った。