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英国出身の迷い犬×文豪ストレイドッグス!!3rd.ep_8
「…少し使いすぎたか」
穴の中で考え込む癖があるのは如何もよくない。
目にかかった、若干白くなっている髪をはらりと払いながら目の前を睨みつけた。
「まぁ、此処だろうな」
---
「…ルイスさん」
「なんだい?」
「どうしてルイスさんが、態々縄を解いてくださったんですか?」
「どうして、って…当然のことだよ」
「ならもう一つ聞かせてください。図々しいかも知れないけれど…どうしてルイスさんの異能空間で待とう、ということにしないんですか?」
「それはさっき云った通り、外がどういう状況なのか、此処が何所なのかもわかっていないから、」
「ルイスさんならアリスさんに頼むことだって、それにもしもの事があったって対処する事だって、可能ですよね」
明らかに、核心をついた。
やっぱり。
このルイスさんは、フランシスの。
ルイスさんなら、私が桜で刻んだ方が速いと知っている。
…それを知らない、から。
そこに違和感を覚えて正解だった。
「未だフランシスの異能がかけ続けられていたなんて、思いもしなかった」
目の前のルイスさんを、じっと見据えて。
「貴方は、偽物ですよね?」
はっきりとそう問いかける。
答えを返す事もなく、静かに一瞬で消えてしまった。
ああ、やっぱり。
「偽物だった...ってことは、フランシスの異能の解除条件は、”偽物”だと見抜くこと、?」
一瞬、思案する為に立ち止まりかけた。
…うぅん、今は、止まれない。
とにかく、進まなきゃ。
「__異能力...四季 桜__!!」
キィィン、と私の周囲が光を発すのと、扉が木っ端みじんに刻まれるのは同時のことだった。
---
Tenniel side.
「…で、如何云う心算だ」
--- 「フランシス」 ---
「…テニエル。きっと此処に来ると思っていた」
「当り前だろ、此処は…此処が、この場所なんだから」
「ま、此処に来たってことはそう云うことだろ__早く行こう」
差し出されたその手を、少し見つめる。
この手を取れば、また此奴らと...兄弟に戻ることができるのだろう。
莫迦みたいに笑って、それで、もう一度__彼奴に、。
「…どうした?テニエル、早く行こう」
「ああ、わかってる、けど…」
どうしても、その手を取るのを躊躇ってしまう自分がいた。
ルイス・キャロルの、あの最後の視線に、どうしても後ろ髪をひかれるように。
黙って此奴らに着いて行けば、泉はルイス・キャロルと孰れ闘い、そして泉が死ぬ。
でないと、計画は完遂されないからだ。
そして、それを止められるのも__
「俺、だけ...」
「…テニエル?__ぁ…泉に異能を破られた、他の奴らに伝えに急ぐ…ほら、テニエル早く」
…泉が異能を破った?
つまりフランシスは異能を掛け続けているところだった、。
でも、今此処で戦闘になるのは良策ではない。
…今は黙って着いて行く。
「何でもない、行こう」
そう云うと、フランシスの顔が綻んだ。
頷いて俺の手をしっかり握りながら歩き出すその兄の背に、少し後ろめたさを感じる。
…どちらか、なんて___選べない、如何しても選べないんだよ…。
俺は…如何したらいい、?
---
あちらこちらの扉を開いては閉じて。
偶に鍵がかかっていると、桜で刻んだり氷で凍らせてから旋風で吹き飛ばしたり。
「…広い、」
でも、何所かしらに必ず居るはず。
時折轟音が聞こえる。
耳を澄ますと、どうやらそれ程離れてはいないようだった。
アイツらとばったり出会ってしまってもいい。
きっと、フランシスが”ルイスさんが自分と同じ場所に来た”という幻影、というか記憶を見せた時点で、ルイスさんもこの建物の何処かしらにはいるのだろう。
なら、私は彼らを探し、見つけ、そして倒すだけ。
私が死ぬのはいい。
でも。
「ルイスさんを…ボスを苦しめたのだけは、どうしても許せない」
鬼さん此方、|鈴《音》のなる方へ。
「一刻も早くジョージ達を見つけ出さなくちゃ...」
また一つ、轟音が建物に響く。
「…もしかして、ルイスさんとジョージ達が交戦中、?…っ早く見つけなきゃ...」
早く。早く。早く。
--- 「見つけた___っ!!」 ---
焔龍がその吐息で扉を吹き飛ばすのと、中にいた彼らと目が合うのは殆ど同時だった。
「ルイスさん…っ!!」
「っ桜月ちゃん⁉無事でよかった…君が無事で、本当に…」
流石、と云うか。
ジョージやハリエット、メアリーもところどころ怪我はしているものの、普通に今の今まで異能力を展開して武器を構えていたらしい。
その状況で、ルイスさんは少し息が上がっているだけで殆ど傷が見当たらない。
…流石、?
あんなに、あんなに恐ろしいと云われたジョージと、その仲間も一緒に戦っていて、?
「…はは、やっぱりフランシスの異能は破られたね、腐ってもポートマフィアだ」
「もうっ、早くテニエルに会いたいのに…ねぇハリエット、もう計画より時間が伸びてるような気がするわ」
「ほら落ち着きなさい、もう少しなんだから…これで次の段階に入れるでしょう?」
…そっか、この人たちはルイスさんと私を戦わせ、まずは私を殺す事が目的。
そんなルイスさんに怪我を負わせるなんてできないか、。
突然現れた私に流石に虚を突かれたらしく、わぁわぁとテニエルに会いたいと繰り返すメアリー。
そんな妹をなだめつつジョージと目くばせをしあっているハリエット。
顎に手を当て、何かを考えているジョージ。
そして未だ剣を構えたままの__ルイスさんその剣重くないのかな__戦闘態勢は崩さないルイスさん。
勿論私も焔龍は呼んだまま。
謎の五角形の静止の均衡が出来上がった一室に、二つの足音が近づいて来ていた。
「っおい、泉に異能力が破られ__」
「フランシス!」
「テニエルーっ」
「ぐぇ」
…勢いよく顔を上げてフランシスの名前を呼んだジョージ。
フランシスと共に部屋に入ってきた...ボス。
そしてそんなボスに勢い良く飛びつくメアリー。
「…そういえば、なんですけど」
ごたごたに乗じてルイスさんの隣迄行った。
「…気になってることがあって」
「奇遇だね、僕もだよ」
「…ルイスさんの気になること、って…?」
「…名前と苗字と呼称について、。同じかな?」
「は、はい…テニエル、って…苗字じゃないですか」
『どうして兄妹の間柄なのに、なぜジョン・テニエルだけ苗字で呼ばれているのか』
「…ふと、気が付きました」
「僕も序盤のテニエルに電話がかかって来た時から気になっていたかなぁ」
よかった。私の認識がおかしいのかと思った。
でも其処で安堵を覚えるのは違う。
この理由、を知りたい。知らなきゃ。
此処に、何か大切な__それもとてつもなく__ものが隠されているような気がする。
谷崎さんとナオミの姿に若干重なるような、仲睦まじい、というかメアリーがめちゃくちゃハートを飛ばしているような様子のボスとメアリー。
ハリエットとジョージ、そしてフランシスは何かを話し合っている。
「君達は僕らを戦わせ、殺し合わせようと目論んでいる、だよね。…その先に、何を見ている?」
直球に聞いたルイスさん。
此処で回りくどい云い方をするのは確かに得策ではない。メアリーが不機嫌になりそうだし。
折角の兄妹の再会を邪魔しないでよー的な。
「さあ、ね。僕達はただ僕達兄妹が幸せに居られる方法を探しているだけさ」
「その為なら犠牲を厭わない、とでも云うのかな」
「当然だろう、情も湧かない者の犠牲を如何して顧みなければならない?」
「…大切な者の、自らの幸せを願うことの何が悪いのかしら」
「その兄妹を縛り付けておいて、何を云ってるの…っ」
--- 「縛り付けてなんか、ないわ」 ---
ジョージと、フランシスと、ハリエット。
この三人を場外に押しやるかのように、メアリーの艶やかな、それでいて末子らしいあどけなさに似たような声が全員を凍りつかせた。
ボスに未だに抱き着いたまま、綺麗な微笑を浮かべて。
「私達は、あの子と再会したいと願っているだけ…テニエルだって、同じだもの。同じ願いを持っているのに、何故縛り付けていることになるの?」
「おい、メアリー…!」
「メアリー、それ以上云っては駄目よ」
明らかに何か焦っている兄妹を横目に、ルイスさんは静かに口を開いた。
「…なら、先ず答えてくれ。君達は何故、テニエルを"ジョン"と呼ばず、"テニエル"と...そう呼ぶ?」
誰かがはっと息を呑んだ、ような音がした。
「ねぇ、もういいでしょ?」
メアリーが、そっとそう尋ねる。
「ねえ」
駄々を捏ねる、幼い妹。
そんな雰囲気がぴったりな、メアリーの声色。
「…”あの子”のこと…もう、云っていいでしょ?」
ハリエットが唇を噛みながら、そっとメアリーの頭を撫でた。
ジョージもフランシスも、何も云わない。
「私達ね、もう一回あの子に会いたいの」
「皆、それだけ。あの子に会いたいだけで、それだけなの」
「…それに、許せない」
「あの子を奪ったこの横浜にのうのうと生きる人全員が、許せない__許せない…!!」
とてもあの先程迄駄々を捏ねていたようなメアリーと同一人物に思えない、その雰囲気。
「あの子はね、ジョンのこと…ずっとふざけて、"テニエル"って云ってた」
「だから如何しても、それを離れたくなかった…なかったことにするみたいで、嫌だった」
「あの子が戻って来るまで__私、私達、テニエル以外の名前で呼ぶなんて、できなかった」
…そういえば。
初めてルイスさんに会ったときのボス。
あの時のボス。
"世界を超えた繋がりだから、特異点になり得る私の招猫に対策を討てる"。
…莫迦みたいにテンションの高かったボスも、そういうことだったんだ。
「…あの時、ボスはもう少しで”その子”に会えると…?」
「…そうだよ。ずっと、この機会を狙ってた...これが、俺達の異能を全部活用して、それでようやく辿り着けた唯一の|機会《チャンス》だった」
「なら、テニエルは初めから僕達のことはただ利用していただけだった__そう云うこと?」
普段の彼からは想像もつかないような...いや、最後に逢ったときの。探偵社で口論していたときの、恐ろしい程に冷たいルイスさんの声。
ボスを見遣ると、目を見開いて口を震わせていた。
ここで詰めなきゃ。
…たとえ、ボスが其方に行ってしまうとしても。
「…そんな、心算は…」
「なら君はどっちの味方だったのかな」
はっきり、させなくちゃ。
「もしも僕と君達兄弟が争う中に君が放り込まれたら、君はどちらの味方をしていた?」
メアリーがボスを抱きしめる力が強まった、気がした。
「僕達側につく…当然だろう、テニエルは僕達の兄弟なんだから」
「そうよハリエット、もうこの人たち早く殺してしまいましょうよっ、テニエルにずっと可笑しなことを吹き込んで…漸くあの子に会えるっていうのに、私、嫌な気分だわ」
「ええ、メアリー、私もそう思う。でも…花姫を手に掛けれるのは私達じゃない。__戦神よ…その後に戦神を皆で倒すの。踏み違えれば、計画が狂ってしまう」
ルイスさんの表情が歪む。
その名前。前にボスも云っていた。
「…そうか、前に云っていたね…テニエル、君は僕の世界で、僕の過去もちらりと知っていると」
えっ、そうなんだ。
私が此処に連れてこられた後の話だろうか。
「ああ。俺は色々な世界をこの異能で見てきた。初めはただ異能を使いこなそうと数を見て来ただけだった、けれどいつの間にかその目的は、…凡ては、…凡ては」
--- 『…もう一度、イライザに逢うため』 ---
「…それだけになっていた」
イライザ。それが、"その子"の名前。
だけれど…
「イライザの身には、何があったの?」
思わず、そう聞いてしまった。
…ジョージが表情を失ったのが目に入る。
「…死んだ」
あくまで静かに。
それはまるで、優しい春の光のような。
静かに降り積もる、柔い雪の様な。
聞く人に全く以て何も感じさせないような、言葉の告げ方だった。
「…この、横浜で?」
「…そうよ、数年前の抗争に巻き込まれて」
「それ、もしかして、」
「きっとマフィアに籍を置いた経験のある貴方達二人なら知っているでしょう」
それは、龍頭抗争?それとも、ミミックとの...?はたまた、もっと前のあの...
羊と高瀬會、そしてゲルハルト・セキユリテヰ・サアビスの…4つの組織が絡んだ、あの時のこと?
「…否、龍頭抗争、だね」
「流石は戦神、御名答。あの抗争のとき、僕達は横浜に来ていたんだ…此処には、すごく綺麗な景色を見られるところがあるって、そう聞いたからね」
「イライザはね、とっても夕日が好きだったのよ!」
ボスの腕から離れないまま嬉しそうにそう云うメアリー。
「だから、今度はあんなことにならないで、私達だけで誰にも邪魔されずに景色を見るの…またこの中の誰かが死ぬだなんて、考えたくもないもの」
ふるふると被を振りながらゾッとすると云いたげに顔を顰めていた。
「…わからない」
「何が?」
「…僕も、わからないね」
「何かおかしいことがあったかしら?」
「…結局貴方が何をしたいのか、全く分からない」
「君が何を望んでいるのかが分からない」
--- 『ねぇ、テニエル』 ---
いつの間にか、誰も武器を手にしていなかった。
苦し気な呼吸の音と、誰かの今にも泣きそうな、そんな声。
それだけが、耳に音として飛び込んでくる。
ルイスさんと全く同じに被った自分の声は、やけに上擦っていたように聞こえた。
えもうなんでこんな悲しくしたの私!?
いや展開早くしたのはですねちゃんと理由があって!!
めちゃくちゃやりたい事があるんです。
コラボならではのちょっと…うん。
やってみたいことを見つけたので。
そして天泣さんの方ではルイスさん視点...冒頭の合流前のシーンを見ることもできちゃいます!
ぜひぜひご覧ください!