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collaboration.4
英国出身の迷ヰ犬達の恋愛話。
どうやら、まだ平和な時間が続くようだ。
No side
「いやいやいやいや!?」
中也が椅子を倒すほどの勢いで立ち上がる。
ニヤニヤと、まるで太宰のような笑みを浮かべている桜月。
対してルイスは、特に動揺していなかった。
「ごめん、もう一回云ってもらっても良い?」
否、ルイスは内心とても動揺していた。
「だから女装すれば良いじゃないですか! 中也も、もちろんルイスさんも!」
「何でそうなるんだよ!?」
「女装すれば絶対にバレないかと思って」
「俺を置いて行くことに痛む良心は、今何ともないのかよ!?」
「うん」
即答した桜月。
中也は頭を抱えた。
そして、いつの間にかルイスは何処かへ行っている。
「私、中也と一緒に観光行きたいもん!」
「……手前、結構大胆なんだな」
「え?」
「彼氏持ちなんだから、言動には気をつけたほうがいいぞ」
中也side
心臓の音がうるせぇ。
耳まで真っ赤に染まってる気がする。
とりあえず帽子を深く被って誤魔化しておくことにした。
「変装するなら必要かと思って、服を整理してきたよ」
いつの間にか、姿の見えなかったルイスさんがいた。
「女性物ってあったり……」
「するんだよなー、これが。これでも戦後は色々としてたから」
「まさかハニートラップ!?」
「いや、あの、うん。……否定はしないでおくよ」
ルイスさんがハニートラップとか、正直想像できない。
でもやっぱり、女性物があるのは意外だった。
流石に趣味、とかじゃないよな。
「中也君、余計なこと考えてたら舞踏会用のドレス着せるよ」
「何でですか!?」
普通に心の声読まないでくださいよ、ルイスさん。
そんなことを思いながら、俺達は服のある場所まで移動するのだった。
「すっご〜い!」
ウォークインクローゼットのように、色々な服が辺り一面に掛けられている。
そういえば、この異能空間って広さどれぐらいあるんだろうな。
こんなに色々なエリアがあるし、一つの地区ぐらいあったりして。
流石にないと分かっていても、少し心配になった。
絶対に掃除とか大変だろ。
てか、異能力の限界超えてるんじゃねぇかな。
「中也はどんなのが似合うかなぁ……」
「僕達、桜月ちゃんの人形にされるの確定だね」
一体誰のせいで、と云おうかと思ったが止めた。
舞踏会用のドレスを着せられたくない。
「あ、これとか良いかも」
「普通にスカートを着せにくるね、君」
「だってこんな機会は中々ないですって! 中也はもちろん、ルイスさんにだって次いつ会えるかなんて分からないんですよ?」
確かに、とルイスさんは納得していた。
というか此奴、自分の世界の俺に着せたりしてねぇのかな。
もしそうならもう一人の俺、ドンマイ。
そうでないなら彼女の暴走を今すぐ止めてくれ。
「はい、中也はこれ」
「因みに拒否権は━━」
「こっちのミニスカでも良いよ?」
「ヨロコンデキサセテイタダキマス」
何で俺、こんな子供に脅されてるんだろう。
考えるだけ無駄なことは分かってたから、さっさと着替えることにした。
ルイスside
「ルイスさんはこっちです!」
桜月ちゃんが見せてきたのは薄い緑色のロングスカート。
そして、カジュアルなロゴ入りTシャツだった。
どうして僕も女装しなくちゃいけないのか。
その理由は分からなかったけど、桜月ちゃんが楽しそうだからいっか。
「何で俺がスカートなんか……」
「はーい、文句云わないのー」
「ルイスさんは何でそんなにノリノリなんですか?」
「あの子が楽しそうだからだよ?」
「逆にどこが楽しくないの、と云いたげな顔で圧をかけてくるのやめてくれませんか?」
そんなつもりなかったんだけどな。
僕達は桜月ちゃんには後ろを向いてもらい、早く着替えることにした。
「あの、ルイスさん。それって━━」
「その先は云わないことを強く進めるよ」
「……分かりました」
「どうかされたんですか?」
何でもないよ、と僕は鏡でおかしな所がないか確認をする。
うん、大丈夫そうだね。
中也君も、《《一応》》着れている。
「もう良いですか?」
「大丈夫だよ」
「え、俺まだ心の準備が……!?」
桜月ちゃんが振り返った。
僕は少し女の子らしく振る舞ってみせる。
「二人とも違和感なさすぎるんだけど、何で?」
「俺の方が聞きたいわ!」
靴や小物なんかも揃えれば、本当に女子にしか見えない。
身長のせいもあるだろう。
でも僕、結構中性的な顔立ちだからなぁ……。
「それじゃ、早速観光に行きましょう!」
「その前に君も着替えようか」
「へ?」
どれがいいかな、と僕は沢山ある服を見ていく。
「……。」
「君、こういうのがタイプなの?」
「え!? いや、ちがっ━━!?」
「桜月ちゃーん! 中也君がこれ来てほしいってー!」
僕は異能力を無駄に使い、桜月ちゃんのところまで一瞬で行く。
中也君はずっと遠くにいた。
「はい、良かったら着てあげてよ」
絶対似合うと思うけど、多分彼女の世界の中也君がいたら殺される。
何故って、今渡したのは猫耳カチューシャ付きのクラシックメイドセットだから。
中也君、ミニよりはロングスカートが良いんだね。
なんか意外かも。
年頃の男子はミニが良いのかと。
まぁ、僕もロングの方が好きだけど。
でも個人的には袴+メイドエプロンも良いと思う。
絶対似合うよね。
というか桜月ちゃんに似合わない服があるわけがない。
「こ、これを中也が?」
「着ない?」
「着ます!」
凄く食い気味だったけど、触れないでおこう。
「ど、どうでしょうか……」
少し頬を染めながら言った桜月ちゃんに対して、僕達は一言も発さなかった。
「あの、ルイスさん? 中也?」
「ごめん、可愛すぎて思考停止してた」
彼女みたいなメイドがいたら絶対毎日幸せだ。
「君が見てたメイド服を着てもらったわけだけど、どう?」
「……。」
「おーい、中也?」
「……凄く似合ってると思う、ます」
いや、敬語なのかタメ口なのかハッキリしようよ。
耳まで真っ赤に染めて、面白いな。
そんなことを考えながら僕は、一着の服を持ってくる。
似合ってるけど、あのまま観光に行くわけにはいかない。
「君に一番似合いそうな奴。まぁ、サイズが合うかは分からないけど」
シンプルな白トップスに、デニムのガウチョパンツ。
完全に作者の趣味だけど良いでしょ。
また後ろを向いている間に着替えてもらう。
「着替え終わりましたー!」
めっちゃ可愛い、と桜月ちゃんは鏡の前で回ってみたりしている。
シンプルな筈なのに、凄く可愛く見えるのは何故だろう。
あ、元が良いからだ。
「この服で観光行っても大丈夫ですか?」
「もちろん」
「やったー! それじゃ、今度こそ観光に行きましょう!」
「おー!」
「……おー」
中也君のテンションが低いのは、云うまでもなかった。
いや、もしかしたら可愛くて見惚れてるのかも。
中也side
「おぉ……ここが山下公園……」
「そこまで君の世界と変わらないでしょ?」
「でも何か、季節が違うせいで全く違う場所に感じます!」
そういや此奴の世界はもう少し日付が先なんだっけ。
(ルイスくんの世界はギルド戦後、桜月ちゃんの世界は共喰い後。多分)
結構違うのか、この世界と。
てか、まだ別世界の人間ってことが信じられねぇんだけど。
ルイスさんの云ってることを疑ってるわけじゃない。
ただ別世界なんてさっきまで知らなかった。
「あ、クレープ屋だ!」
「多分一緒だよね。買いに行く?」
行きたいです、と其奴は目を輝かせている。
「……可愛いな」
「ねぇ、中也もクレープ買いに行こうよ!」
「え、あ、俺は席取っておく。立ったまま食べるのはあまり良くねぇからな」
そっか、と少し落ち込んでいる其奴を見て少し後悔した。
てか、俺さっきなんて云った。
可愛いなんて、彼奴に聞かれてねぇよな。
「それじゃあ買ってくるね。中也は何がいい?」
「別に要らな━━」
「じゃあ私のおすすめ買ってくるね!」
「聞いた意味は!?」
俺のツッコミも届くことなく、ルイスさんと彼奴はクレープを買いに行ってしまった。
甘いの食べたい気分じゃねぇから良いのに。
まぁ、彼奴のおすすめは少し気になるな。
それにしてもルイスさん、何話してるのかな。
自分で残ることを選んだとはいえ、ちょっと仲間はずれ感があって寂しい。
いや、寂しいけど別に寂しくねぇし。
「……心の中で何云ってるんだ、俺」
「たっだいまー! はい、これが中也の分ね」
渡されたのは照り焼きチキンのクレープだった。
俺、甘いものじゃない方がいいって云ったか?
「おすすめにするって云ったけど、あまり甘いものの気分じゃないのかなーと思ってこれにしたんだけど……」
「……よく分かったな」
普通にすげぇ、と思った。
どうやら、甘い方がいいなら自分のと交換するつもりだったらしい。
探偵かよ。
というよりは、彼氏のことは分かってるんだろうな。
「そういや手前、支払いはどうしたんだ? 下手したら別世界の通貨は偽札扱いにされるんじゃねぇのか?」
「……ルイスさんに払ってもらいました」
「桜月ちゃんの世界に行った時に払ってもらったからね」
少し悔しそうに其奴はクレープを食べ進めた。
自分が払いたかったんだろ、多分。
まぁ、そういう日もあるよな。
俺だってカードしか持ってなくて払えない時は、部下に出してもらってる。
現金を持ち歩くようにはしてるが、忘れる時はあるんだよな。
「……うまっ」
「本当!?」
良かったぁ、と其奴は笑った。
俺の好みに合うか心配だったんだな。
やっぱり可愛い。
「━━!」
ふと、ルイスさんの方を見た俺は驚いた。
此方を見て、めっちゃ微笑んでる。
ルイスさんのことだ。
どうせ俺の考えてる事もお見通しなんだろう。
(ん、お見通し━━?)
ぶわっ、と顔が赤くなるのが自分でも分かった。
そんな俺を見て、ルイスさんはもっと楽しそうに微笑んでいる。
めっちゃ恥ずかしいんだけど。
「あれ……もしかして中也、熱とかある?」
「べ、別にねぇよ!」
顔近いんだが。
ルイスさんのせい、なんて云える筈もなく照れ隠しのためにクレープを食べる。
食べ進めるにつれて、何か違和感を感じた。
視界が歪んでいる。
まるでふらついているように、体の感覚がおかしい。
胸の辺りが、とても苦しい。
「る、いすさ……」
「中也君!」
俺は最期まで云うことが出来なかった。
ベンチから落ちるように倒れる。
「ルイスさん、とりあえず異能空間に!」
「分かってる!」
「しっかりして、中也!」
ふと見えた自分の腕。
俺は、思わず驚いてしまった。
絶対に見間違える筈がない。
腕には何故か《《あの痣》》が浮かんでいた。
第四話。
いやぁ、急展開ですね。
痣が浮かぶとか、誰が考えたんだよ。
これからの展開どうするつもりなんだろうね、私。
ルイスくんと桜月ちゃん、そして中也が中心となって進んでいく物語。
collaboration.5以降も、どうぞお楽しみに。
待って、自分でハードルあげてて笑う。
それじゃあ、また次回お会いしましょう!