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鳩の国 8話
森を抜けて数時間、目の前に立ちはだかったのは雲を突くような巨大な石壁だった。門を守る二人の兵士は、抜き身の刀を構え、氷のような視線を向けてくる。
「止まれ。何者だ」
「アステリ王国の第一王女、スターよ。ここを通らせて」
兵士たちは一瞬顔を見合わせたが、すぐに道を開けた。
「……女王の元へ案内する。」
重い扉が開いた先には、別世界が広がっていた。極彩色に彩られた繁華街。華やかな着物を纏った女たちが、男たちの腕にすがり、香の匂いと喧騒の中を歩いている。だがその賑わいは、街の先に立ち込める深い霧に吸い込まれていた。霧の向こう、桜が狂い咲く険しい山の頂に、白と藍色が鮮やかな城がそびえ立っている。
兵士に導かれ、城の最上階にある庭園へと案内された。そこには、桜の吹雪が舞う中、静かに杯を傾ける者がいた。頭部に立派な枝角を持つ鹿の女王の桜嵐だった。
「……あら、トロイの娘じゃない。会うのは貴方が六つの時以来かしら」
「桜嵐女王、お久しぶりです。またお目にかかれて光栄です」
スターが深々と頭を下げると、女王は細い目をさらに細めて問いかけた。
「で、亡国の王女が何の用かしら?」
「ご存知かもしれませんが、父が母を殺害し、アステリを破滅させました。私は父を追っています。この光線が貴国の先を指しているのです。どうか、通り抜けさせてはいただけないでしょうか」
「……ならば、相応の対価を支払ってもらおうかしら」
「ハァ? 国を通るだけで金がかかんのかよ、ケチくせぇな」
ウノの軽口が飛んだ瞬間、ディアが即座にウノの頭を殴りつける。
「いっ、てぇ……!」
「口を慎みなさい、狼。」
桜嵐は不快げに眉をひそめることもなく、ただ退屈そうに笑みを浮かべた。
「払ってもらうのは、金貨などという卑しいものではないわ。……我が国とアステリとの、永続的な独占貿易権を許可しなさい。我が国の商人が、貴国の領土を自由に、優先的に行き来できる権利よ。」
「失礼ですが……今の我が国には、貴国と対等に渡り合えるだけの資源も、守るべき法もありません。そんな約束、取引にはなりませんわ。」
スターの拒絶に、桜嵐はふっと鼻で笑った。
「ハァ……。正直に言っていいかしら。貴方、根本的に方向性を間違えているわよ。私たちが守るべきは自国の民、自国の腹。貴方はお父さんを追うことに必死だけど、その間、残された貴方の国の民はどうしているの? 飢え、凍え、他国に蹂躙されるのを待つだけかしら。」
女王は杯を置き、鋭い角を月光に光らせた。
「父親探しを優先し、王女としての責務を捨てて逃げている。そんな者に、我が国の道を通す価値があると思う? 復興の誓いすら立てられぬ者に、未来を語る資格はないわ。」
「⋯⋯っ」
スターは黙りこくってしまった。ディアやウノ、ロージーも何も言い返せなかった。
スターは静かに許可証にサインをした。
桜嵐女王⋯10代の少女に、母親亡くしてすぐなのに王女の責務だとか、未来を語る資格はないだとか、厳しすぎじゃありませんか?!
嫌な奴なのに言ってることは正論だなんて⋯(自分で書いといて何だけど笑)
ここで豆知識
桜嵐女王の角は亡くなった夫の物で、女王の威厳を表すために着けているそうですよ。