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雨の日の出来事
7月だというのに、梅雨が開けていないような雨が続くとある日に、それは起こった。
窓ガラスに点々と雫がつき、その雫が電球の光を反射していた。休み時間、3階にある教室から見ると、すでに部活終わりで帰っている人がぽつぽついた。色とりどりの鮮やかな傘の花が、濡れた地面を華やかにしていた。
「うわー、雨か」
隣でそう言ったのは、|杉森七海《すぎもりななみ》。僕の腐れ縁兼幼馴染的な存在だ。小5までは馬鹿やるぐらいの間柄だったが、今では想いを寄せるような間柄になっている。一方的なのだが。
「雨だね、傘ある?」
「折りたたみあるんだけど、ちっさいからなー。ま、しゃーない、突っ走ればなんとかなるっ!」
活発で元気なところだろうか。どこに惹かれたのか、明確にはわからない。
七海は恋愛に疎い。だから、僕と抵抗なく一緒に帰ろうとしてくる。変な勘違いも起こりそうだ。
「いやー、マジできっついわ。濡れるし、最悪」
「ね…じゃあ、ね」
交差点で、僕と七海は別れる。15分ぐらい歩いてきた。僕の家までは、あと10分だ。バイバイ、と別れる彼女の顔が、すこし傘で隠れる。控えめに手をふるぐらいしか、僕には出来なかった。
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帰ってテレビをつけると、ローカルニュースだった。小さくてつまらないものしかない。さっさと切り替えよう。動画サイトでも漁るか。そうチャンネルを変えようとした時、あの交差点がでかでかと映った。
『【速報】交差点にて女子中学生1人車にはねられ死亡』
「…っざけんな…」
こんな暴言が出た自分を初めて感じた。外は雨が強まっている。
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翌朝学校に来ると、七海のことで色々とあった。七海はいわゆる2軍で、それほど注目されるわけでもない。七海の席はぽかんと空いていた。いつもなら、そこにポニーテールに髪を結った七海がいる。
その後、担任から詳しいことを聞かされた。七海を轢いた奴は、もう逮捕されたこと。七海の葬式は、今週中に身内で行われること___
七海の席を見る。
あの時、雨だった。雨の香りがした。みんな傘をさしていた。七海は折りたたみ傘を広げていた。すこし制服が濡れていた。濡れているのを言ったら、陽気に笑っていた。太陽みたいな感じで、雨なんて飛ばすような感じだった。
なんにも言えなかった。七海に想いを伝えられなかった。ただただ過ごしていただけだった。ただ、幼馴染として喋る日々に満足していただけだった。
ぶわっと後悔が押し寄せてくる。昨日が遠い日のように思えてくる。今日は雨だ。一緒に帰る人も、一緒に喋る人もいない。ただ、1人で帰る。
今日も雨だ。
恋愛叶わなかった系の話というリクエストでした。重めの話になっちゃってごめんなさい。