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晴瀬です。
3話です。
「遊びに行く、って何処へ?」
高2の8月頃、遊びに誘ってきた紫苑に俺はそう訊いた。
芹矢さんが亡くなってから約2ヶ月が経っていた。
「なんかさ、山とか登りたい」
「ほら、あそことか」
そう言って山登りなんか滅多にしたがらない紫苑はここから近い、巷で有名な山を挙げた。
「いいよ行こうか」
俺はそう答えて、その週の日曜日に2人で出掛けることにした。
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翌朝、目が覚めた。
嫌な予感がした。
いつも朝に弱い俺は必ずといっていいほどスマホのアラームで起きるのに、今日はアラームの音を聞いていない。
恐る恐る枕元に置いてあったスマホを手に取り電源を入れ時刻を確認する。
スマホの中の時計は8時7分を指していた。
遅刻だ。
思考が停止する。
いつも紫苑と一緒に学校に行くのに。
紫苑が家のチャイムを鳴らして、いつも紫苑がそうしてくれるから遅刻しないで済んでいるのに。
置いてかれた。
俺が遅刻することを分かってて|家《うち》まで呼びに来なかったんだ。
「紫苑め…」
忌々しく漏らして俺は立ち上がる。
俺は一つ溜め息をついて急いで登校の準備を始めた。
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ダッシュで教室に飛び入った俺はすぐ教卓に目を向ける。
幸い、担任はまだ来ていなかった。
「来たな」
俺が自分の席に鞄を置くと|春葵《はるき》が真っ先に俺のもとに寄ってきた。
春葵は高校で同じクラスになりそれからずっと同じクラスで仲良くしている友達だった。
「マジで焦った」
俺はそう言って小さく笑う。
教室の時計を見ると8時43分を指していた。
|HR《ホームルーム》は8時40分から始まるのか決まりだ。
「今日|桐生《きりゅう》は?遅くない?」
せっかちな担任の名前を出す。
いつもHR5分前には必ず教室に入っていて、生徒から鬱陶しがられている担任。
だからもうとっくにHRが始まっているんだと思っていた。
「ラッキーだったな、なんか必要なプリント忘れてきたからちょっと遅れるって」
春葵が言う。
「それにしても遅刻なんて酷いなあ〜」
春葵がそうやって俺を煽る。
「ただでさえ成績が悪いのに、まぁた先生に目つけられちゃうんだ」
にやにや笑う春葵に、
「紫苑が俺を見捨てたんだ!」
「俺んちに来てくれればこんなに走らずに済んだのに!」
俺は大袈裟にそう言ってみる。
すると春葵はにやにや笑いをやめて不思議そうな顔をする。
「あれ、お前知らないの?」
「紫苑今日学校来てないらしいよ」
紫苑とは違うクラスだったから今まで気付かなかった。
「えマジ?」
「おいおい嘘だろ?まさか2人して遅刻かよ」
春葵が額に手を当てて背中を反る。
呆れのポーズ。
「はあ、お前らがそんなにポンコツだとは…」
とことんいじってくる春葵に俺は笑いながら殴り掛かるふりをする。
「きゃあ!」
思っていたより高くて可愛らしい声を出した春葵に俺は驚いて動きを止める。
「お前のどっからその声出るんだよ」
俺が笑って春葵が笑った。