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**本当のことだけで、恋はできない**
次に会ったのは、土曜日の図書館。
たまたま同じ場所にいた。声をかけようか迷っていると、蓮の方から歩み寄ってきた。
「……LINE、読んだよ。」
柚子月は小さくうなずいた。
「……ごめん、嫌だった?」
蓮はしばらく黙ったあと、ゆっくり答えた。
「……本当は、言わないつもりだった。恋愛で誰かをがっかりさせたこと、あるから。」
「……がっかり?」
「……付き合ってた子がいて。大学入ってすぐ。でも……僕、ちゃんと向き合えなくて。文章にばっか逃げてた。」
彼の声は、少しだけ震えていた。
「それで……その子、泣かせたんですか?」
「うん。」
沈黙が流れる。
だけど柚子月は、心の中でひとつだけ決めた。
(過去は過去。
それでも私は——“今の彼”を見ていたい)