公開中
第4話:雨上がりのバージンロード
新婚生活の幸福な余韻に浸る間もなく、時間は残酷なほど滑らかに加速していく。
気づけば私は、真っ白なウェディングドレスに身を包んでいた。
教会の屋根を叩いていた雨が上がり、雲の隙間から宝石のような光が差し込む。
「遥、綺麗だ」
タキシード姿の湊が、少し照れくさそうに、でも真っ直ぐな瞳で私を見つめていた。
その瞳は、さっき病室で閉ざされていたものと同じはずなのに、今は生命力に満ち溢れている。私は彼の腕にそっと手を添えながら、心の中で何度も祈った。
(お願い、この時間が永遠に続けばいいのに。あの未来が、ただの悪い夢だったらいいのに)
「誓いますか?」
神父様の問いかけに、湊は少しも迷わずに答えた。
「はい。健やかなるときも、病めるときも、彼女を愛し、とことん甘やかすことを誓います」
本来の誓いの言葉に、彼らしい一言を付け加える。参列者から小さな笑い声が漏れたけれど、湊は大真面目な顔で私の指に指輪を嵌めてくれた。
「……私も、誓います。湊のことを、一生、大事にします」
私の声は少し震えていた。
四十年後の結末を知っているからこそ、指輪の重みが、彼という存在の尊さが、痛いほどに胸に刺さる。
披露宴の最後、二人きりになったバルコニーで、湊は私の肩を抱き寄せた。
「遥。もし俺が先にいなくなっても、泣きすぎちゃダメだよ。……まあ、俺が君を置いていくなんて、よっぽどのことがない限りないけどさ」
湊が冗談めかして言った言葉に、心臓が跳ねる。
「……そんなこと言わないで。ずっと一緒にいて」
「わかってる。約束だよ」
湊は私の小指に、自分の小指を絡めた。
あたたかい、指切り。
けれど、その温もりを感じた瞬間、不意に教会の鐘の音が、あの病院のモニター心電図の「ピー」という無機質な音と重なって聞こえた気がした。
視界がわずかに歪む。
目の前の湊の笑顔が、一瞬だけ、真っ白な花に囲まれた遺影のように見えて――。
🔚