公開中
私は東京の秘密を知っている 三話
月曜日の放課後、表は学校から商店街へ向かって歩いていた。
いつも通る道が、少し違って見える。
空気が薄く、遠くの車の音も、人の話し声も、かすかにしか届かない。
——やっぱり、街全体に異変が広がっている。
表は息をひそめ、ノートを取り出す。
足元の小さな白い紙くずも、いつの間にか消えかけている。
【通学路の路地。音も色も薄れる】
表は、記録を取りながら街を見回す。
どの店も、どの角も、白くかすれて、まるで忘れられた場所のようだ。
でも、知らない間に、通りの端で沙月が影のように立っている。
声も出さず、表の行動を見守り、安全な方向へとさりげなく導いている。
表は気づかない。
全て、自分の判断だと思って街を巡る。
古いアパートの前に来ると、透けた階段の上に昨日の影の子が立っていた。
表は微笑み、階段を上がる。
影の子は手を振り、表の後をついてくる。
——異変が広がっているのに、少しずつ取り戻せる。
そのとき、裏の通りから風が吹き、消えかけた看板やポスターがわずかに揺れた。
表は立ち止まる。
——あ、直った?
でも、それを助けたのは沙月だった。
通りの陰から微かな手の動きで、街の“戻るべき場所”に微調整をしていたのだ。
表はノートを開き、次々と書き込む。
【アパート。階段と壁の色が少し戻った】
【通りの看板、わずかに濃くなる】
夕陽が街を照らすころ、商店街の白いかすれは少しずつ色を取り戻していた。
でも、表には疲れが見えた。
夜、布団に入ると、表は窓の外の時計台を思い出す。
針は右に進んでいる。
——街は、まだ生きている。
——でも、私は、知らないうちに誰かに導かれている……?
沙月は、その夜も街を影のように見守っていた。
表の戦いを見守り、必要なときだけ導く。
——徹底して、誰にも気づかれずに。
金曜日の午後、表はいつもの商店街を歩いていた。
空気は静まり返り、遠くの車の音も、子どもたちの声もほとんど消えている。
時計台の針は止まったように見え、銭湯やアパートの白い壁は、昨日よりさらにかすれている。
——街全体が、消えかけている……。
表はノートを取り出した。
手が震える。
【商店街。色も音も薄れる。街の半分が白い】
歩くたび、足元のタイルが半透明に溶ける。
道行く人も、表の前から消えかかっている。
——ここまで来るとは思わなかった。
表は立ち止まり、深呼吸する。
——自分ひとりで、街を守らなきゃ。
その瞬間、角の奥で、微かに風が動いた。
扉が軽く揺れる。
——沙月だ。
表は気づかない。
でも沙月は、裏から街の危険を避け、表の行動が最も効果的になるよう導いていた。
通りの半分が白く消えかけた状態で、表は決断する。
「……やるしかない」
ノートを開き、ペンを握る。
今まで記録してきた街の音や色、思い出——全てを書き留める。
白い空白に文字を刻むことで、街の存在を少しずつ戻す作戦だ。
影の子も表の後をついてくる。
手を伸ばせば、半透明の壁や看板が少しずつ色を取り戻す。
沙月は遠くから見守るだけ。
表には全て自分の力だと思わせるため、完全に気づかれない。
商店街を抜け、公園や学校の周りも巡る。
白い空白の中で、表は何度も立ち止まり、息を整えながら文字を書き続けた。
夕陽が街を照らすと、かすれていた部分がわずかに色を取り戻す。
表はノートを閉じる。
——街は、生きている。
——私は、まだ戦える。
沙月はその影から、表の小さな戦いを見守り続けていた。
——知らぬうちに、街は守られている。
翌日、表は朝から街を歩いていた。
いつもの通学路も、商店街も、公園も、色が抜け、音が消えかけている。
時計台は静まり返り、銭湯の湯気も、アパートの階段のきしみも、かすかにしか感じられない。
——ここまで、広がるとは……。
表はノートを取り出す。
手が震える。
——でも、やらなきゃ。
通りの白い空白に文字を書き、記録するたび、わずかに色や音が戻る。
影の子も後ろで見守り、時折手を伸ばして表を助ける。
その時、表の背後に微かな気配。
——沙月だ。
表は気づかない。
でも、沙月は街の裏側から通行の安全を確認し、消えかけた店や看板を微妙に揺らし、表が自然に最も効率よく街を回れるよう導いていた。
表は全て自分の力だと思い込む。
でも、沙月の存在があるから、白い空白の中でも安全に行動できているのだ。
公園に着くと、半透明になったブランコや砂場の遊具が揺れている。
表は深呼吸し、ノートに書き続ける。
文字を書くたび、かすれた色が少しずつ戻る。
——まだ終わらないけど、少しずつ戻せる。
夕陽が街を照らすころ、商店街や路地の白い部分がわずかに色を取り戻した。
表は立ち止まり、息を整えながらノートを取り出す。
夜、窓の外で遠くの時計台の針が微かに動く。
——表には知られず、でも確実に、街は守られている。
土曜日の朝。
表が目にしたのは、ほぼ真っ白になった街だった。
時計台の針も止まり、商店街も路地も、公園も、音も色もほとんど消えている。
——街全体が、白い空白に包まれている……。
表は息を吸い込み、ノートを取り出す。
【街全体。白く、音も色も消えかけ】
歩きながら文字を書き、思い出や色を刻みつける。
影の子が後ろから見守り、手を伸ばして消えかけた部分を少しずつ戻す。
通りの端には、影のように沙月が立っている。
声も出さず、表には気づかれない。
でも沙月の存在が、街全体の微妙なバランスを守っている。
表は全て自分の力で街を取り戻していると思い込む。
だが、裏で沙月が安全や順路を誘導してくれているから、街の白い空白に迷わず立ち向かえる。
商店街、路地、公園、学校。
白くなった場所に文字を書き、思い出を刻むたび、少しずつ色が戻る。
風が通り、消えかけた音や笑い声も、微かに蘇る。
——まだ終わらないけど、戻せる……。
日が傾き、夕陽が街を赤く照らすと、かすれていた部分が色を取り戻し始めた。
街の一部は完全に白から解放され、色と音が戻る。
表はノートを閉じ、深く息をつく。
——街は、生きている。
——私が戦った、これは、私の力だ。
夜、窓の外で微かに時計台の針が動き、遠くの銭湯やアパートの音が戻る。
沙月はその影から、表の戦いを見守り続けていた。
——知らぬうちに、街は守られていた。
表は小さく笑った。
——街を取り戻せた。
そして、誰かに支えられていることにも、いつか気づくだろう。
月曜日の朝。
表が目にしたのは、昨日よりさらに薄くなった街だった。
商店街の看板も、アパートの壁も、空気も色を失いかけ、歩くたびに靴の音も消えていく。
——なぜ、街は消えていくんだろう?
表はノートを取り出し、白くかすれた街の様子を書き込む。
【商店街。半透明。音も色も消えかけ】
影の子が前を歩き、かすれた色を取り戻すように手を伸ばす。
表は全て自分の力でやっていると思い込んでいるが、知らないところで沙月が裏から導いていた。
——どうしてこんなことが起きるのか。
表はふと、街の中で奇妙なことに気づいた。
空にかすかな白い光の筋が走っている。
風に流される雲とは違う、不自然な光の帯。
その光の下にある建物は、より早く色が消えかけている。
——街の消え方に、規則がある?
表は考えながらノートに書き込む。
【光の筋の下。消失のスピード早い】
夕方になり、商店街の角で休んでいると、遠くでおばあさんが立っているのが見えた。
おばあさんの目は静かに街を見つめ、表に気づかれないように何かを操作している。
そして、通りの陰には沙月の姿があり、表が安全に進めるよう微妙に導いていた。
表はまだ、自分の力で街を守っていると思っていた。
でも、街が消えかける原因——白い光の筋、消える場所の規則——を感じ取ったのは、自分だけではない。
沙月も、おばあさんも、影の子も、すべてを把握しているのだ。
夜になり、表はノートを閉じる。
街の色や音は完全には戻っていないが、少しずつ取り戻せた部分もある。
——街の秘密を、少しだけ理解できた気がする。
——でも、この戦いは長く、まだ始まったばかりだ。
窓の外で微かに時計台の音が響き、遠くの銭湯やアパートの軋みが戻る。
沙月は影のように立ち、表の行動を裏で誘導している。
街の消失の秘密を知る者として、表を守るためだけに動く。
——街の白い空白は、まだ完全には消えていない。
そして、表の戦いは、これからが本番だ。