公開中
第三章 普通の当たり前
奏楽
「美味しい。杏ちゃん美味しいよ。」
「うっまい……!」
「っ……!下僕、おかわりあるか?」
優斗さん、悠斗さん、蓮斗くんは私が作った料理を口にするなりそう言ってくれた。
「お口に合ってなによりです。たくさん作ったのでおかわりはありますよ。」
そう言ってふんわり微笑む。
(よかった……!不味いとか言われたらもうここにいれないかもだから……)
一人ふぅっと息をついた。
(それじゃあ私はそろそろ自室にもどらせていただこうかな。)
そう思いそーっとリビングを出ようとしたときだった。
「おい、杏。お前、どこ行くんだよ。」
悠斗さんが私を引き留めた。
「どこって自室にもどるんですよ。」
キョトンとしながらそう告げると、三人はこの世ならざるものを見るような目で私を見てきた。
(あれ?私なんか変なこと言ったかな……?)
しんとした雰囲気の中、優斗さんが口を開く。
「杏ちゃん、一緒に食べないの?」
今度は、ほんとに……?と言わんばかりの表情で私を見る三人。
「一緒に食べるなんて滅相もないですよ!私は残飯で十分ですので、皆さんが食べ終わった後、洗い物をするときにキッチンの隅で食べさせていただきます!」
(施設ではこれが普通だったし、暖かいご飯を家族と一緒に食べるなんてバチが当たってしまいます……)
「では、自室に戻らせていただきますので何かあればすぐに申し付けくださ……」
「一緒に食べろよ。」
そう言ったのは悠斗さんだった。
「杏ちゃん、この家では残飯なんて言葉使わないで。君も一緒に温かいご飯をお腹一杯食べるんだ。」
お茶碗にご飯をついでくれている優斗さん。
「下僕に飯を食わせないなんて主人として失格だからね。……ほら座りなよ。」
椅子を引っ張ってテーブルマットをひいてくれている蓮斗さん。
「い、いや私は……」
「「「食べるんだ。」」」
声の揃った一言。
(こんなに誰かにご飯を食べるように言われたの生まれて初めてだ……)
たった一言なのに私の心には強く響いてしまった。
「じゃ、じゃあ今日だけ頂きます。」
三人の押しに負けて、素直に椅子に座る私。
ふんわりといい匂いがする炊き立てのお米を口にいれた瞬間、
「っ……!!!」
私の目から一粒の涙が溢れていた。
「っ……!美味しい……暖かい……お腹の中がほかほかしてます……!わ、私こんなに暖かくて美味しくて柔らかいもの初めて食べました……!」
ぽたぽたぽたぽたと私の目から流れる涙。
それは今まで怖くて出ていたものとは違う暖かくてここちのよいものだった。
(三兄弟の皆さん、気づいているだろうに、何も言わないでいてくれてる……優しいな……)
私が幸せを噛み締めているとリビングのドアがバタンと開く。
「「「「あ……」」」」
そこには少し出掛けていた幸川夫婦の姿が。
「っ!!杏ちゃんどうしたの?この三人に何かされたの?」
「杏ちゃん、大丈夫?どこかいたいの?」
私を心配して駆け寄ってくれる二人。
「違うんです!これはなんというか幸せの涙なんです。……私、こんな暖かいもの初めて食べて……」
一瞬悲しそうな怒りの混ざった瞳になった二人だがすぐにいつもの優しい瞳に戻る。
「そっか。よかったよ。今日からこれが君の当たり前になるように支えていくよ。」
主人さんはそう笑顔で言ってくれた。
やっと書いていて楽しいところに来ました!
杏ちゃんの涙、感動してくれたひとはいるでしょうか?
次回は杏ちゃんと三兄弟がショッピングセンターに行く話を描こうと思っています!
よければ読んでくださると嬉しいです!