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第十二話
黒宮、三鷹、如月の3人は、如月の運転で神戸へ向かっていた。
三鷹「これ何?」
如月「え?…あー、交通安全のお守り」
三鷹の手の中にある奇妙な人形の腹には、『交通安全祈願』と刺繍してあるが…。
かなり奇抜なデザインだ。如月らしいと言えばそうだが。
如月「結構付き合い長い子がさ、…あ、レイちゃんって言うんだけど…で、レイちゃんは霊感あるみたいで、そーいうオカルトっぽいの好きなんだよね」
三鷹「あたしとは趣味が合わなさそうな人ね…」
黒宮「霊感があるかはともかく、わざわざ貴船神社で札を買ってくるようなタイプなんだな」
如月「どう?効いてる?そのお札」
黒宮「欠片も効いてない」
三鷹「怖いこと言わないで欲しいんだけど」
如月「まあ、見えなきゃいいでしょ笑」
黒宮「…」
高速道路を降りた車は、山道を進んでいく。
三鷹「道あってるの?ずいぶん山奥だけど」
如月「俺も来たことないから自信ないんだよね〜」
黒宮「この道で合ってると思うが」
三鷹「ヒイラギもナビも頼れないんだからしっかりしてよ。こんなとこで迷子なんてごめんだからね」
如月「ナビには頼ろうよ笑」
山道をひたすら登ること20分弱。やっと目的地が見えてきた。
三鷹「『水嶋製作所』…。こんな山奥だったのね」
如月「俺らみたいなのがいっぱい入ってきても怪しまれないように、ってことじゃない?」
車を停めて、入口を探す。
古ぼけた看板はいまにも落ちそうだ。
如月「あれ?あの車、柳澤さん?」
三鷹「わかるの?ちょっと怖いんだけど」
建物の裏手に停めてある車に駆け寄る如月。
如月「うん、絶対柳澤さんのだ。…うわーせっかくお休みなのに…」
黒宮「なんでここに?」
三鷹「柳澤さん、仲介業者だし、拳銃のメンテナンスとかわざわざ頼む必要なさそうよね」
如月「…柳澤さん、警察学校卒業したての頃、神戸にある交番勤務だったって言ってたから、知り合いかも。ほら、“水嶋“って言ったら、10年くらい前に殺人事件あったじゃん」
三鷹「覚えてないわ」
如月はスマホを取り出してニュースサイトを開いた。
如月「20××年6月23日、水嶋製作所の社長・水嶋英二さん(45)が自宅で死亡しているのが発見された。水嶋さんは複数箇所を刃物で刺されており、頸動脈を切られたことによる失血死だった。警察は事件性があるとみて捜査を進めていたが、犯人を示すものは何もなく、操作は難航している。…だって」
三鷹「未解決事件?」
如月「そうそう。で、写真とか見た感じここがその事件現場っぽいよね。じゃあ、今ここにいる人は事件関係者じゃない?」
黒宮「10年前の事件をまだ追っていると?」
如月「さあ?確かに柳澤さんは根に持つタイプで執念深いし、頑固だし、昭和っぽいけど、わざわざ10年前の事件を掘り起こしそうにはないし…」
柳澤「黙って聞いてりゃ根に持つだの執念深いだの頑固だの…お前に言われたくねえんだけどなァ!!!!」
如月「ぎゃあああああああああ」
柳澤「なんっでお前がここにいるんだよ!」
三鷹「クロミヤちゃんの拳銃のメンテナンスに着いて来たの」
黒宮「この間車を爆破させられて、移動手段がなかったから送ってもらった」
柳澤「車を爆破…?…まあいい。で、なんでそれに如月もくっついてきた?」
黒宮「…死にたくなかった」
柳澤「はあ?」
三鷹「あたしの運転、そんなに荒い?」
黒宮「かなり荒い」
如月「で、俺が呼ばれたわけ。別に来たくて来たわけじゃないから!!」
柳澤「…」
三鷹「柳澤さんはなんでここに?」
柳澤「水嶋に会いに来たんだ」
黒宮「10年前の事件の関係者か」
柳澤「被害者の息子だ。水嶋一。まさか業界に関わっていたとはな…」
如月「あー、交番勤務だから子供のお守り頼まれてたってことか。情が湧いちゃった的な?」
柳澤「お前は黙っとけクソ野郎」
如月「暴力反対!」
三鷹「アンタが言うな」
???「柳澤さん、これ」
建物から作業着姿の青年が出てきた。
重たそうな前髪で目があまり見えない。
柳澤「あー、悪いな」
三鷹「あ、水嶋ちゃん?」
水嶋「…どなた?」
初対面の人間にいきなり『ちゃん』付けで呼ばれて驚いたのか、じりじりと後退している。
黒宮「水嶋、メンテナンスを頼めるか?」
水嶋「わかりました」
関西弁のイントネーションで、なんとなく聞きなれない。
水嶋は建物へ戻って行った。
如月「宮ちゃんより若いの?」
柳澤「今年で20歳だ」
三鷹「高卒で働いてるのかな。拳銃も手作りだっけ。腕は良さそう」
柳澤「中卒だったか。機械操作の腕は良いが、社交的ではないな」
金属を削る音が外まで響く。
三鷹「ヒイラギは武器とか持たないの?」
如月「うーん…、なんかさ、拳銃とか持ってると、なんかあった時迷っちゃうんだよ。『拳銃使おうかな?それとも素手でやっちゃおうかな?』って」
三鷹「意外と優柔不断なんだ」
如月「それは言わないで!?」
黒宮「優柔不断なヒモというのも珍しいな」
柳澤「だからとっととヒモなんざ辞めろっつってんだよ!!」
如月「飛び火したし…」
水嶋「メンテ、終わったんですけど…」
黒宮に拳銃を渡し、柳澤の背後に回る。
如月「…柳澤さんの子供だっけ?」
柳澤「違う」
三鷹「小動物か何かみたいね」
黒宮「…」
如月「用事済んだんなら早く帰ろ?」
三鷹「柳澤さんから逃げたいの?」
如月「そこは突っ込まないでほしいな〜?」
三鷹「帰りはあたしが運転しよ…」
如月「運転できるから!!」
三鷹「食い気味に言わなくてもいいでしょ」
黒宮「命の危険を感じるから…」
如月「宮ちゃんズバッと言い過ぎじゃ…」
三鷹「クロミヤちゃんだからいいの」
三鷹は言い捨てて車に乗り込んだ。
如月「ちょっ、置いてかないでー!!」
三鷹「とっとと乗りなさい!」
如月の運転する車は、凄い勢いで山道を下っていった。
柳澤「事故るなよ…」
水嶋「慣れてるみたいやし、大丈夫だと思います」
柳澤「慣れるもんじゃないだろ…」
如月が何故明らかに法定速度を無視したスピードで車を走らせることに慣れているかは、詳しく考えない方がいいだろう。
ちょっと長くなっちゃいましたw
初登場の水嶋ちゃんは自作キャラです。今後ちょこちょこ出てくるはず