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要らない
「…お腹、空いたなぁ」
レベッカは呟いた。
不慮の事故により、片腕を亡くした彼女は、小刀1つとともにこの島に捨てられてしまった。
どうせ誰かここに来るだろう。片腕がない状態で1人で狩りなんて、とてもじゃないが出来ない。そう思い動かなかった過去の自分を殴りたくなる。
今、この島は冬籠りの時期らしく、ここに来てから人1人も見ていない。
雪にドンドン体力を奪われ、動けない。
いっそのこと、小刀で喉元をついてしまおう。そう思った時、
「ちょっと!こんな時期に何してるの!死んじゃう!」
女に拾われた。
「なんでこんなところに居たの?この時期に居たら死んじゃうよ。観光客?な訳ないか」
この島何もないしね、と笑う彼女になら、話してしまっても良いのではないかと思ってしまう。
「…捨てられました。腕がなくなって、使えないから、って」
そこから事情を説明すると、女は机をバンッ!と叩き立ち上がった。
「はぁ!?何それ、信じらん無いんだけど!そもそも子供を使うって何?本っ当にムカつく!」
女が私に近づいてくる。さっきまでの鬼のような形相は消え去り、涙を流していた。
「ねぇ、私と一緒に暮らさない?私は君を使う、なんてこと絶対しない。約束する。だから、どうかな?」
考えるより先に言葉が出ていた。
「…お姉さんが、良いなら。よろしくお願いします」
そう言うと、女は温かいココアを入れてくれた。
2人の同居生活の幕が上がった瞬間だった。
彼女はエマと言い、年齢は32。
「20代前半だと思ってた」
そう言うと、えぇ!そんな若く見える?じゃあ、美人姉妹に見えるかな?と笑った。
冬籠りの間、おそらくエマが一人で食べようとしていた分、を全て半分に分けてくれた。切ったことによりサイズの違いが生まれたものは全て、大きい方を与えてくれた。
一度、申し訳ない。小さい方を分けてくれるだけ十分だ。そう伝えたことがあったが、
「大人になったら我慢なんていくらでも出来るんだから、子供のうちはそんなことににしなくて良いの!」
と頭を撫でられた。
冬籠りの時期が過ぎると、エマはレベッカを連れて船に乗り、技師のもとを訪ね、レベッカに義手を贈った。
その後は街で教本を少なくないお金を払ってレベッカへと贈った。
レベッカは12歳にしては、得手不得手の差が激しく、エマはそこを少し心配していた。
レベッカは、折角買ってくれたのだからと、毎日読み続け、数ヶ月も経つと、同年代から頭一つ抜けた知識票になっていた。
ここでの生活も半年が過ぎ、季節が夏に変わろうとしていた頃、島民約50人のこの小さな島で、大きな事件が起きてしまった。
人が死んだのだ。小さな兄妹だった。
あの兄妹がこの世から去り、10年経っただろうか。
あれから何人も人が殺された。
兄妹の次も子供、その次も。
その時、この島から家族と年頃の女は殆ど居なくなった。
次の標的にされたのは"老害"と島民に忌み嫌われていた老人たちだった。
子供たちは、一見眠っているような、安らかな表情だったが、彼らは明らかに恐怖を抱いていた。
最後まで残っていたあの男は、気づくと島を出ていた。10年同じ島で暮らしていたが、最後まで良くわからなかった。
この島も、気づけば2人になっていた。
「やっぱりそうだったんだね。エマさん」
レベッカが呟いた。不思議なことにその言葉には、悲しみも恐怖も入っていなかった。
「そうよ。私は一応暗殺者なの。ここに居たのは潜入捜査。あとはアンタだけ。とっとと死んで頂戴」
私に銃を向けるエマの姿は、初めて会った頃から変わらず美しく、42歳とは到底思えない。
「…うん、良いよ。撃って」
思いの外すんなりと受け入れるレベッカにエマは少し動揺するも、銃を撃つ体勢に入る。
あとほんの少し、指に力を込めれば弾が飛ぶ。そんな時、レベッカがもう一度口を開いた。
「今までありがとう。お母さん」
最初の頃はあんなに下手だった笑顔も、今はこんなに自然に出せるようになったよ、そう言うように笑うレベッカを見て、エマは泣き崩れた。
「やだよ…。私、レベッカのこと殺せない。一緒に逃げよ?」
「…ダメだよ、お母さん。もう、自由になって良いんだよ?だから、ほら」
エマの手の上から銃を握り、自分の方へと向ける。
「…ごめん。レベッカ。ごめん」
そう言いながらエマは引き金を引いた。
それと同時に心臓のあたりに違和感が。
「…え、?」
初めて会った日、レベッカが持っていた小刀が刺さっていた。
この日、島から人間が消えた。
「エマは人が良すぎる。悪いところが無い子供たちを殺すことが出来ない。そんな奴、ここには要らない。片腕のお前もだ。時間はいくらかかっても良い。命果ててこい」
「…ラジャー」
そう言えば、初めて異国の話書きました。
ちょっと遅れちったんですけど、まぁ、投稿できただけ良しとしようではないか!