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創作意欲の暴走
〈キャラ紹介〉
・ヴィンセント
高い身体能力で剣を扱う。
・マイルズ
高い魔力で魔法を自由自在に操る。
目の前に高密度の魔力。
「よっ、と」
回避。
同時に、俺を囲むように魔法が飛んでくる。
目の前に、炎の壁が広がった。
読まれた……いや、誘われたのか。
剣を振るう。
剣は炎を切り裂き、俺が通る道を開く。
俺は、魔法を生み出している相手……マイルズを見据える。
中・遠距離戦は奴の得意分野だ、俺は圧倒的に不利。
まずは距離を詰め、あいつが自由に魔法を使えないようにする!
体の向きを変え、マイルズの方へ駆け出す。
――!
咄嗟に姿勢を低くした。
頭上を斬撃が通り抜け、俺の髪がはらはらと舞い落ちる。
……気付くのがあと数瞬遅かったら、もう少し頭の位置が上だったら……俺の首は飛んでいた。
いや、今はそんなことは関係ない。
戦闘の反省は勝ってからすれば良い。
それまでの勢いで体を引きずり細かい傷ができたのは名誉の負傷、軽い傷と俺の命を天秤にかければ安いものだ。
体勢を立て直し、再び駆ける。
「あはははは!! なんでアレを避けられるのかなぁ!? でも、これなら流石の君でも避けきれないでしょ!」
遠くにマイルズの高笑いが聞こえる。
……ありがたい。
自分の居場所と、これから何か攻撃することを教えてくれた。
俺が避けきれない、ね……
俺は走るのをやめた。
同時に、俺の前に青白い炎の壁が現れる。
「芸のない奴だな!」
軽く煽ってやれば、
「あはは、僕がそんな単調な攻撃、するわけないでしょ!!」
耳に鋭い痛み。
俺の耳が切り裂かれていた。
だが、何によってだ?
魔力の高まりも感じなかった。
俺が|こいつ《魔法使い》との戦いで魔力感知を怠るなんてミス、するはずがない。
背後に剣をやる。
カキン、と何かを弾く音がした。
そういうことか。
かなり遠くに高密度の魔力を感じる。
こいつは、俺からかなり遠いところで土や氷……途中で霧散しない、実体のあるものを召喚し、俺に飛ばしていたのだ。
風系の魔法など殺傷力の高い概念系の魔法は、長い距離をおけば途中で霧散する。
概念系の魔法が俺に届く距離の魔力は警戒していたが、その範囲外はあまり警戒していなかった。
「見事だ!」
素直に称賛する。
「それはどうも! ところで、そんな余裕ぶっちゃっていいのかなぁ!」
さて、話は変わるが、俺の剣は特殊な金属でできている。
魔力を弾くのだ。
付与魔法などを弾いてしまうため不便も多いが、これが魔法使いと戦うときによく効く。
炎の壁を構成する魔力の核となっている部分を見抜き、この剣で斬る。
俺が成そうとしていることを理解し、マイルズが叫ぶ。
「確かに、君ほどの実力があれば並の魔法は斬れるだろうね! でも、僕の魔法は《《特別》》だ! きっちりとプロテクトがかかっている!」
ああ、そうだろうな。
でも、俺の剣だって特別だ。
魔力を弾く以上、どれだけ強力なプロテクトがかかっていようと無意味。
俺の剣は炎の核を捉え、そして――
斬った。
目の前にぽっかりと空いた空白地帯。
攻撃がくるのを待ってやるほど、俺はお人好しじゃない。
俺は、そこをマイルズに向かって全力で駆け抜ける。
頭上に、高密度の魔力の集合。
そこから現れるは、俺の体重の何倍もありそうな巨大な岩。
それが数えるのも億劫になるほど現れ、俺に降り注ごうとする。
避けるのは無理だ、隙間がなさすぎる。
かと言って魔力を切り裂くのも無理だ。隙をさらすことになる。それだけあれば、あいつは俺を殺れる。
本当は使いたくなかったが……仕方ない。
「――蒼雷」
出力五十パーセント、全力で駆け抜ける!
「やっと見せてくれたねぇ! ――紅月!」
おいおい……
「それは反則だろ!?」
奴の魔力がぐっと一段階深みを増したのが分かる。
蒼い雷を身に纏う俺に相対するのは、紅い月をその身に降ろした至高の魔法使い。
雷を体に流すという俺の強化方法に対し、奴の「紅月」は魔力の圧縮と増加、そして常時回復……自らの器に収まりきらないほどの魔力をその身に宿す。過剰な魔力は己の身を食い尽くす、だが、奴は魔力の回復速度を上回る速度で魔法を発動し、そのリスクをほぼゼロに近付けている。
魔法の発動が先ほどより明らかに速くなった。
五十パーセントだと足りない、到達するまでに押しつぶされてしまう。
なら――
思考を「突破」から「迎撃」へ切り替える。
駆け抜けることのみに費やしていた思考を、周囲の詳細な状況把握へ一部回す。
一意専心、それも悪くないが、戦いにおいては悪手だといえる。
今この状況では、一歩をより速く、広く踏み出すより、多少スピードを落としてでも生還率を上げる方がいい。
魔法陣が描かれる。
剣を構え、致命的なものを切り裂き、道を切り開く。
あと、もう少し――!!
魔法陣が輝く。
それらは巨大な岩を召喚し――
届いた。
俺の目の前にはマイルズが。
紅い月を宿したその目には、一体何が映っているのだろう。
「じゃあな、マイルズ」
一閃。
刃がマイルズの体を穿ち――
マイルズの体は、
どろりと溶けた。
これは……
デコイか!
俺に悟らせぬよう、極端に丁寧な魔力操作によって恐らく戦闘開始直後からゆっくり作られていたデコイと、奴は入れ替わったのだ。
奴に対する俺の注意が緩んだ時……大量の岩の隙間を蒼雷によって駆け抜けた時に。
「それは僕のセリフだねぇ」
マイルズのデコイを斬り、気が緩んでいたのだろうか。
俺は、マイルズの接近を許していた。
「な、んで……」
わざわざ近付いた?
俺の疑問はマイルズに正しく届かず。
「最強の剣士と至高の魔法使い、どちらが強いのか知りたかったから、かなぁ」
返ってきたのはこの戦いの原因だった。
「ほら」
マイルズが、俺に回復魔法をかける。
「僕は、全力の君と戦いたいんだ」
お望みの通りに!
蒼雷、出力百パーセント。
何もしていないにもかかわらず、細胞にダメージが蓄積されていく。
これだ。蒼雷のデメリット。
五十パーセントまでは俺の制御下にあるが、それ以上になると反動がくる。
つまり、短期決戦用の奥の手。
一瞬でマイルズとの距離が離れる。
今のあいつは転移魔法すら使いこなす、叩くのはあいつに余力がない状態になってからだ。
俺は襲ってくる魔法を躱し、時にいなし、時に斬りながら、マイルズへ接近する。
魔法がかすった。
くそ、もう落ち始めたか。
あいつより先に俺のパフォーマンスが落ち始めちゃ意味ないだろ。
どうにか打つ手は――
「そういえば、俺もたった今思い出したんだが」
紅月の本質は「破壊」。
であるならば、だ。
「悪いな、俺にはまだ伸び代があったらしい」
出力全開。
俺は、二振りの剣を握っていた。
それは、どこまでも蒼い。
蒼く、眩しい光の中を、時折白い光が走り抜ける。
地面を蹴り、一気に距離を詰める。
マイルズが大量に展開した魔法を容易に切り裂き、その首元に刃を当て、
「じゃあな、お前はいい友だった」
「やっぱり、君の方が強かったか……もう、心残りはないよ。最後に君と戦えて、良かった……」
血が飛び散る。
「なあ、聞こえていないかもしれないが……この剣の銘は『蒼陽』っていうんだ」
今は亡き友の力に、敬意を表して。
紅と蒼、月と太陽。
俺は友を乗り越え、世界最強になった。
注:
ただ戦闘描写を全力でしてみたかっただけなので登場人物の情緒や行動に少しおかしいところがあるかもしれません。