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朽ちても朽ちても
眼前が真っ赤に染まった。
これで何人目…?
俺は生ぬるい液体を掌から滴らせながら白い四肢を虫のように這わせて倒れる女を見下ろした。
不思議だ。怖いほど慣れてしまった。
未だ女から発せられる香水の香り、味を占めたように自然と上がる口角、遠くから聞こえてくるサイレンの音、尚も平常を保ち一切汗の浮かばない額。
いけないことだと分かっていても何かが俺を捉えて離さない。誘惑、なのだろう。
でもいつかその鎖が千切れて俺を解放してくれると信じていた。
その証拠にほら、家のインターホンが鳴った。何度も聞いたそのセリフ。
「警察です。」
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潤った地面に張り付いて動かない。ただひたすら光を浴びて水を飲んで養分を作って。青々とした衣を身につける。
この囚われた身が自由になる日が来るのだろうか。
僕はただこの世界を傍観することしかできないのだろう。
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鉄が軋む音と共に俺は籠に入れられた。
さあ、自由になるまでのカウントを始めるとしようか。
1日目。図体の大きい男が目の前に来て食事を運んできた。質素だが普段の俺よりは豪勢な食事。
旨いとは言えないが、その味が俺が自由になれることを象徴するようで幸せだった。
2日目。事情聴取という名目で籠の外に出された。無機質な白い部屋に通されてひたすら質問責め。「何故同じことを繰り返すのか」「動機は」。
でも答えはいつも同じ。
「自由になりたかったから」
3日目。俺と血縁関係のある人が面会に来たらしい。正直ほとんど覚えていない。覚えているのは体に残る強烈な痛みと柔らかい巨体を殴った拳の感覚くらいだ。
「何でそんなことをしたの」と聞かれたが、答えはいつも同じ。
「自由になりたかったから」
4日目。刑事が籠にやってきた。俺の気持ちを頑張って推理したようでどんどん持論を展開されていく。「あなたは過去のトラウマを他人にぶつけている」「幸せになる未来があるのでは」。
でも答えはいつも同じ。(以下略)
25日目。退屈になってきた。やる事と言えば籠の隙間から見える森林を眺めることくらい。何も考えずに呑気に生きている彼らは楽なのだろうな。人間に搾取されても相手を傷つけることも感情を抱くこともない。俺もそうなりたかった。
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空気が乾燥してきた。衣も疲れきったかのように檜皮色になって皺がついている。
役目は終わった。もう終われると思った。
衣が廃れて一つ一つ剥がれ落ちていく。
僕は一生の眠りについた。
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3ヶ月後。籠の扉が開いて1日目の男が出るよう促した。俺の胸は高鳴った。夢が漸く叶うと。
しかし連れていかれた先にあったのはあの時に見たサイレン。四肢を掴まれ運ばれていく。俺と2人の男がいるだけの空間で高鳴っていた胸が徐々に萎んでいるのを感じた。
狭い部屋から出された後は事情聴取の時と同じ様な無機質な白い部屋に入ってベッドに固定された。
白衣の老人が来て薬を処方して何かよく分からない言葉を発して出ていった。
俺の瞼は一切逆らえずに重たく沈んでいき暗闇の中に入っていった。
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目が覚めた。その瞬間に全てを確信した。
あぁ、自由なんて無いのだと。
いつの間にか青い衣を纏っている。
また囚われて、また利用されて、また繰り返すのだ。
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目が覚めた。その瞬間に全てを確信した。
あぁ、自由なんて無いのだと。
いつの間にか体に針が刺されてどろどろとした液体が吸い込まれていく。
また囚われて、また生ぬるい液体に体を浸して、また繰り返すのだ。
窓を見るとあの時に見た青い木がただただ突っ立っていた。
朽ちても朽ちても、また生き返る。
最後までお読み頂き、本当にありがとうございます♪
初めての作品で稚拙な所が多いと思いますがたくさん成長できるよう頑張りますので、どうぞこれからよろしくお願いします。