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のろしてやる!
辺りはすっかり暗くなり、昼の暑さが嘘のようにじんわりと寒くなる夜。
白髪をかきあげて、白い紐が束になったピアスが見える友人。
視線に気づいたのか笑って、隠すように手でこちらの顔を塞ぐようにした。
「やめてよ」とその手をどけて時計を見ると、午後9時である。
そろそろ良い時間だ。友人に時間を伝えると空気を察したのか、すぐに語り始めた。
「前にさ_」
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前にさ、仕事場でクソ消費者...じゃなかった、お客さんの対応してたんだよ。
ん?あー、僕の働いてるとこ?スーパー、もうすっごい大きなとこ。話、戻すわ。
で、その時対応したお客さんがもう80歳くらいのお爺さんで、すっごい喚くの。
もう、酷いの何のって...僕の職場、ひどい迷惑客のブラックリスト、作ってあるんだよね。
いつも「早くしろ」とか「若いもんはこれだから...」って所謂ところの、老害?そんな感じ。
それで、その爺さん...大抵決まって最後に「のろしてやる!」って言うんだよね。
「呪ってやる!」じゃなくて、「のろしてやる!」なの。
老人だから、発音が上手くいかなくて噛んでるんだろうね。
ただ、その割には他の言葉ははっきり言うわけ。
「ノロマ」とか「漬物石」とかね。それだけ言えたら、「のろしてやる!」もはっきり言えそうだよね。
だから、僕ね...その人に「たまには“ちゃんと呪ってやる!”って言ったらどうなんですか?」って言っちゃったんだよね。
そしたら、その人...凄い笑って、笑って、笑って...気持ち悪いくらい笑い出したんだよね。
だんだん僕も怖くなって、ちょっと柳田...店長さんを呼んで回収してもらったの、その人。
で、結局...その人は最近来なくなったんだよね。
でも「のろしてやる!」って何だと思う?
ちょっとさ、調べたんだよ。
「のろしてやる」って言葉さ...陰陽師って知ってる?
その陰陽師の言葉でいうところの...`呪い殺してやる`って意味らしい。
それを僕がその爺さんのレジ対応する時にずっと言われ続けられてたって知ると怖いし...。
多分、その爺さん、言葉の意味を分かってて言い続けてたんだと思う。
だから、僕が「たまには“ちゃんと呪ってやる!”って言ったらどうなんですか?」って、言った時、笑っちゃったんだろうね。
ホント、嫌になるよね、接客業って。
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話終えて、疲れたように笑う友人。
この友人は今までに...どれほど似たような言葉を耳に受けてきたのだろうか。
言葉は鋭利な刃物と言うが、その言葉の本当の意味に気づけているのだろうか。
少なくも、この友人は気づかなかった。
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--- `**のろしてやる!**` ---
__よくあるタイプの作品です。呪われたりはしません。__