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7.朝の風。
短針は4時前を指していた。
薬を飲んだのに、3時間も眠れないとは思わなかった。
容姿を確認するために、鏡で自分を見た。
そこには目の|隈《くま》と泣いたせいで生まれた赤さの腫れが酷いことになっていた。
これは流石に映画で泣いたなんて嘘じゃ誤魔化せない程酷かった。
だから僕は冷やすためのものと、コンシーラーを用意し、まず腫れを引かせるために目の下にその冷たいものを当てた。
なんで僕はこんな惨めな運命にあるのか、時々分からなくなる。
他の人は僕より辛いはずなのに、なんであんなに、シリウスのように輝いて見えるのだろうか。
起きてから自分がやっていたことを投げ出して何となく、部屋を後にした。
理由はなかった。後付けの理由を考えるなら、朝風に包まれたかった、だろうか。
「………はぁ」
今ここから落ちたらどうなるのかな、なんて結果は経験しなくても分かっているのに。
ただただ怖いだけ、あと半歩が踏み出せないだけ。勇気がない僕が嫌い。何もできない僕が大嫌い。
目から溢れる涙が、僕の体の代わりに何度も何度でも落ちていく。
せっかく腫れを治めようとしたのに、なぁ。なんて自分が泣き始めたくせに、そんな事を思う。
「……あの、」
「大丈夫ですか?」
振り返るとそこには、見知らぬ女性が僕を心配そうに見ていた。
時が止まったみたいだった。
人に僕の涙を見せることなんてなかったから。
この朝早い時間帯なら誰も居ないなんて思っていたから。
「………ぇ…ぁ…な、んでも…」
僕は逃げるように部屋の中へ戻った。
外になんて行かなきゃよかった。なんて、もう戻せぬ過去の僕を恨んだ。
完璧じゃなきゃだめだったのに。
こんな僕が、誰かに言われたらどうしよう。
泣くな、泣くな、と自分に言い聞かせる。
しかし、負の感情は収まることを知らず腹から僕の体を蝕むようだった。仕方ない、僕が悪いんだから。
「………」
鏡に映る自分を見つめながらゆっくりと笑顔を作って、口を開いた。
「……なおさないと、なぁ……」
僕は先程放置した氷とコンシーラーを手に取った。
担当:ルクス、ツクヨミ