公開中
✵裸の王様↹偽の女王✵
華やかな色を通すステンドグラスからは赤や黄色、翠に染まった光が差し込み、悦に浸るような男を明るく照らしていた。
光に照らされつつあるサリエルは胸元に|十字架《ロザリオ》を握り込んだまま、ただ一心に祈りを捧げていた。
不意に光に照らされていない影から、燃えるような|赤色《レッド》の長髪に笑っている|黒色《ブラック》の瞳をして、白肌を黄色のボーダーシャツと青のオーバオールに包み込み、茶色のローファーを履いた男性が呟いた。
「今更、祈ったところで何になるんだ?もう何人と殺してる、|神様《キリスト》ってのはそこまで優しいもんじゃないだろ」
その言葉にサリエルは一度振り向き、いやに怪訝そうな顔を浮かべて一言だけ返す。
「僕は神様を信じている」
ただ、それだけのことではあったものの、不機嫌になるには十分な材料だった。近くにあった火のついていない蝋燭を蹴り飛ばし、癇癪のままに扉を開けて見える憎らしいほどに明るい笑顔を見せる太陽が神のように偶像と化して消えてしまえと願った。
そもそも、常に傍にいるのは神なんてものではなく自分自身、|俺《アモン》であるというのに。
ロンドンの街中を歩きながら、オーバオールのポケットの中に手を突っ込んで中の金貨をかちゃかちゃと鳴らす。
その度に、すれ違う小さな子供達が輝かしい瞳でこちらに視線を映した。それが、ひどく面白く滑稽だった。
ふと足を止めて複数の風船を金貨で交換して、真っ赤な風船の束を手に抱えて青年ばかりの公園に目をつけた。
少し大人になった子供の楽しげな声が聞こえ、まだ幼さの残る顔と心が周りへ集まってくる。その中の一人がうずうずとしながら風船を促した。少々、頬を赤らめつつも輝きのある瞳をみて、自棄になった胸が踊るようだった。
走り回る子供の内、先程の一人を引き止めて|道化師《ピエロ》のようにはにかんで見せる。まるで雛鳥とでも言うように素直についてきた青年の手を引き、大通りから人気のない路地へ歩みを進めていく。
そのまま、小さな廃墟の中で青年を待たせ、別室の中にある人が一人浸かるほどのバスタブに低濃度のフッ化水素酸を流し込んだ。その中に指を入れると運が悪かったのかすぐに浸透して身体の中が痛むような感覚に襲われるものの、ゆっくりとそれはひいていき、特にこれといった問題はなかった。
青年の部屋へ帰り、未だに瞳を輝かせるそれの手を掴んで後ろへ持っていき、痛みを訴える青年を無視して片手も同様に後ろへ持っていこうとした瞬間、手の中で柔らかな手から鈍い音が聞こえた。
直後、青年は凄まじい声を挙げ、痛みを更に強く訴える。それを見て再度、怒りが胸の中から込み上げ、青年の胸辺りを足で蹴り上げて倒した青年を引きずるようにして青年をバスタブの部屋の中へ連れ込んでいく。
後ろの方で聞こえる謝罪よりも、後の断末魔の方がひどく喜ばしかった。
バスタブの中に青年の顔を近づけて「嫌だ、嫌だ」と拒絶を呈する言葉を無視し、頭を掴んでバスタブの酸の中に青年の顔を浸ける。水中で息をするように泡が立った途端に何度もそれが多くなり青年の身体の痙攣と呼吸が呼応していた。
その声が、まるで聖杯堂に響く天使の歌声のようで柄にもなく口元をひどく歪ませる。時折、青年の顔をあげて濡れた顔を見つつ再度、顔を浸けなおすことを繰り返し、面倒になって青年の身体ごとバスタブの中に沈ませた。
バスタブの中で必死になってもがく青年を見ていて、先程までの怒りが雪のように溶けてなくなるような気がした。
酸の中から青年を引き摺り出し、その場に縛りあげて放置する。数時間ほどで青年の中に酸を語る毒が牙を向き、皮膚を通り抜けて筋肉や骨まで到達し、腐食させる激痛が轟き、断末魔に近しいような悲鳴を青年は歌い続けた。
その頃にはすっかり、暗く夜が覗いて俺の身体も岩つつじの花が差し込まれた梟の頭部と白銀の狼の胴体、青い鱗の蛇の尾に変貌し、青年の顔に痛みと恐怖の色が浮かんでいた。
青年の声を子守唄のように聴き続け、鳥の囀りが聞こえる頃にはすっかり青年の身体にはひどく赤く腫れ、中心部に至っては白っぽく変色したり、水疱ができていたりしていた。
心臓は既に動いておらず、真っ赤な皮膚の人形となった青年だけが残されていた。