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【曲パロ】My Imaginary Lover
原作元曲「SOS」↓
https://www.youtube.com/watch?v=u8tdT5pAE34
ああ、これはきっと夢の中なんだ。
光ファイバーのように薄く張られた視界が見えたとき、そう思った。
タイル張りの床に撒き散らかされたミルクのように白かった。
手を動かそうとした。動かなかった。
視界は真っ白なのに、四肢は暗黒の中を彷徨っているようだった。
苦いような、甘いような香りが鼻腔を吹き抜けた。
いい気分だ。
あれだけ四方に飛び散らんとしていた肉片が今では眠っている。
そのおかげだ、皮膚と皮膚の裂け目から噴き出していた血もつんざくような激しい痛みもおとなしい。
つ、とファイバーが切れた。
こふ、と誰かの咳払いが聞こえる。
「———あなた、誰?」
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ゆるゆると|微睡《まどろ》む意識の中で、人影を見た。
「お前は……?」
彼は何も言わなかった。そっと手を伸ばし、自分の頬に触れる。
ひんやりとしていた。真冬の水道で浴びてきたかのようだった。
炭酸が音もなく弾けて心の臓に溶けていくような、そんな感覚を覚えた。
「ここにいる、大丈夫よ」
ギシ、と木が|擦《こす》れるような音がした。
頬に触れている手が、首元をなぞる。そのまま耳の裏で止まった。
ゆっくりと視界が開けていった。
痛くない。
ドクン、と拍動を感じた。
炭酸にも似た流体が、心の臓に押し出されて全身に流れていく。数多の破れた血管も、引き裂かれた神経も|蔓《つる》が伸びるように修復されていった。体中に張り付いたヘドロをも、洗い流して消していく。
いい気分だ。
白い天井が見えた。自分の部屋が見えた。ああ、|何時《いつ》ぶりなのだろう。
「目が醒めた?」
隣に彼がいた。自分の顔を覗き込んでいた。
そっと手を伸ばし、自分の目尻に触れた。少しくすぐったかった。
自分も手を伸ばした。彼はそれをぎゅっと掴む。両手で、包み込むように。治し、癒し、洗い流すように。
どうも自分が、神聖で美しいものになったかのようだった。先ほどまで醜く卑しかった自分は、もう泡に消えていったかのようだった。
掴んだ手を彼は片手で胸に持っていく。もう片手で、自分の首筋を捉えた。
ふふ、と笑みが浮かんだ。結構くすぐったかった。
「———……」
何と言っているのか。わからない。彼はそっと、自分の方に顔を近づけて———
ぐるり、と視界が反転した。
視界にあるあらゆる物体が、目の前の彼が、粘土を潰したかように崩れてゴポゴポと混ざっていく。
ドクン、と拍動を感じた。
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どろり、どろり、|攪拌《かくはん》されていく。
息をしているのかしていないのか。目の前は混沌とした赤茶色。何もかもをミキサーでかけたようだ。
君は、君は?
なぁ、ここはどこだ?
ぐちゃりと潰して広げた頭蓋、そこから噴き出ているのは何だ?
もう夢か|現《うつつ》かも分からない。
君は、どこにいるんだ?
———ああ。
甘い匂いがする。