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私の父さんは勇者だ
数学の授業中に問題そっちのけで考えてた話です。
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私の父さんは勇者だ。
別におとぎ話に出てくるような大層なものではない。国の外から|エサ《ニンゲン》を求めてやってくる魔物を倒して人々を守るだけの、用心棒のようなものだ。
でも、私は、おとぎ話に出てくるかっこよくてイケメンな勇者より、髭がじょりじょりしてていつも母さんに怒られてる勇者の父さんが好きだった。
そもそも、私が大好きな勇者のおとぎ話を毎晩読んでくれたのもまた、父さんだった。
「『勇者様の手で、世界は平和になりましたとさ』…クロエはこのお話が本当に好きなんだなぁ」
「うん!だって勇者様の絵がイケメンでかっこいいもん!」
「クロエ、お前の父さんもかっこいい勇者なんだぞ〜」
「うーん…似てない」
「うん、無邪気な一言が一番刺さるな」
父さんが白目をむいて倒れる真似をする。膝に乗っていた私もぱたりと父さんの上に寝転んで、きゃっきゃっと笑い声を上げた。
「でも…そうか、クロエは勇者をかっこいいと思うのか」
お父さんはなぜか、少し寂しそうだった。
「父さんは勇者が嫌いなの?」
「ああ、大嫌いだ…できれば今すぐにやめたい」
「なんで?」
「クロエ、お前も大人になればわかるよ」
当時6歳だった私には、父さんの真意は全くわからなかった。
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私の父さんは勇者だ。
その肩書きのせいで、家にいることはほとんどない。大抵、国中を飛び回って魔物を倒していた。
だから、最初聞いた時はうまく頭に入って来なかった。
父さんが、死んだ。
魔物に襲われかけていた子供を庇って、魔物の餌食になったそうだ。父さんの体は無惨に食いちぎられ、帰ってきたのは左腕だけだった。
父さんの葬儀にはたくさんの人が押し寄せた。当然だ。父さんは勇者なのだ。国中を飛び回って、たくさんの人々を救っていたのだから。
…だけど。
父さんは、わたしたちを残して逝ってしまった。
涙は、出て来なかった。
なんで、私たちを置いていったの?
私たちよりもその子が大事だったの?
まだ、一緒にいたかったのに。
私は結局、最後まで泣かなかった。
…泣けなかった。
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父さんが死んですぐ、私にも“勇者の資質”が宿った。
それは、魔物を殺す力。
それは、生物を殺す力。
それを求めて、たくさんの大人がこぞって会いに来る。
私に難しい話をして、最後には全員同じ言葉を吐く。
「私が庇護してやろう。お前の力をうまく使ってやれるぞ?」
吐き気がした。
そうして、誰の庇護にも入ることなく、私は勇者になった。
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父さんは勇者だった。
父さんは、勇者が大嫌いだといった。
今なら、私にもわかる。
…勇者は、本当に大切な人を、本当に大切な時に守れない。
もし、国の反対側にいる時に家族が襲われたら?
もし、家族が病に倒れたら?
助けることはおろか、そばにいることだって出来やしない。
たった二人の家族より、大勢の民衆を救うのが勇者だ。
ああ、父さん。
私も、勇者は嫌いだ。
そんな本音を隠して、私は今日も力を振るう。
正義の笑みを貼り付けて。
そういえば…この時期、病んでたかも。