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全ての世界が狂した時 第2話
部屋には相変わらずこう書かれている。
【助かるには、誰か1人を犠牲にしなければならない】
氷夜は心配そうに黒雪の手を握っていた。
ラス達は俺を守るように俺を囲った。
誰も動かないまま時間が過ぎる。
全員が無言だった。
「ね、ねぇ…これ何なの?」
そして、何も知らない黒雪は気になったように氷夜にそう問いかける。
氷夜は少し間を空けてから微かに口を動かした。
「俺たちの、始まりの場所」
「───?」
黒雪は理解できないというように首を傾げた。
無理もない。
黒雪だけ、何も知らない───
何も覚えてないのだから。
俺は懐にいつも常備してある銃を握りしめる。
本当に、出ることは出来ないのか?
俺はその銃を構えて窓の方に発砲した。
「─────チッ」
ヒビさえも入らない。
「このままじゃ、永遠に出られないよ?」
突然、教室の扉の方から声が聞こえてきた。
全員が一気にそっちを見つめる。
綺麗な黒色の髪に、所々入れているピンク色のメッシュ、綺麗な茶色の目。
ラス達はようやく、彼の正体に気づいたらしく、軽く片足を引き、すぐに攻撃できるような体勢をとっていた。
「ハハハッそんな怖い顔しないでよ。俺はちゃぁんと一度君たちを人間に戻しただろう?その後のことなど、何も約束なんてしていない」
彼、闇鬼の主はそう言うと、不気味に微笑んだ。
今までの幼さ全く感じられない。
だからこそ不気味さも増す。
そして彼は俺たちに新しい銃を投げ捨てる。
「鬼ごっこをしようじゃないか。その銃は、人を打っても死にはしない。撃たれた人が‘鬼’となるだけだ。1時間後、最後に鬼だったやつが犠牲者になる」
それじゃあ、頑張ってと笑った彼は、氷夜に銃を撃つ。
鉛が当たったのを確認してから、彼は消えた。
午前2時
3時になったら終わる。
徐々に、氷夜の瞳が闇に堕ちていくのがわかった。
あの時のような、冷たい、何にも興味がないような目で俺たちを眺める。
「みんな、死ね」
危険を察知した全員が走り出す。
きっと氷夜に今、自我はない。
「ラス、みぃつけた」
不気味な氷夜の声は、無慈悲に俺の近くで響いた。
「氷夜、やめっ」
ラスの声は途中で途切れる。
「ねー誰かぁ俺に殺されてくれないかなぁ?」
そして近くを通り過ぎるラスの声。
隠れている教室の扉の隙間から見たラスの目は、完全に、悪鬼になった時と同じ目をしていた。
「紫雲は、俺のだよ」
息を呑む。
目の前にいるのは屑洟。
ただ、目が死んでいる。
鬼、だ───
屑洟は俺の胸に銃口を突きつける。
「紫雲は俺が守るから、声出さないでね?ここに来たやつ、全員殺してあげるから」
その声と同時に、屑洟は後ろにいた孌朱に発砲した。
鬼になった孌朱は不気味に笑ってどこかに行く。
目の前の屑洟は、呼吸が荒い。
「ごめ、ごめん───紫雲」
屑洟は小声で話を続けた。
「あの銃を喰らうと、どうしても悪鬼だった時の気持ちが大きくなって、自我がわからなくなる。無性に人を殺したくなる」
気をつけて。そう言って屑洟は去って行った。
まるで、地獄だった。
おもいっきり約束破りました