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梅雨の思い出
今回少し長めです。
もうすっかり散ってしまった桜、あぁ今年も花見に行けなかったな、なんて考える。
もうすぐ春が終わり、夏がやってくるのだ。
「…あ、」
ぽちゃ、とほっぺに冷たいものが当たった。
少し小走りで帰り道を急ぐ。どんどん雨は強くなっていく。
そうだ梅雨、忘れてた。
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家についた頃には、全身びしょ濡れだった。水も滴るいい女も良いところだ。
ぱっぱと制服についた水を落とす。撥水加工ついててよかった。
このままシャワーに入りたいところだが、駄目だ。面倒くさい。
「梅雨とか意味わかんないし」
部屋のドアを開けて、愚痴っぽく言ってみる。
すると、なぜだかぶわっと頭に記憶が舞い込んできた。
「お母さん!雨、楽しいね」
「楽しいね。あっ、水たまり行かないで!」
小さい頃は梅雨になると、公園へ出ていつも遊んでいた。
かたつむりを探すために、毎日大きくて派手な長靴を履いて、お母さんと手を繋いで。
水たまりに映った虹が見たくて、ぽちゃぽちゃ踏んで、お母さんに怒られながら。
今思うとお母さんに申し訳なくなる。
こんな憂鬱な梅雨に、わざわざ外に出て私と遊んでくれてたこと。
--- お母さんは、もういない。 ---
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少しこめかみ辺りに違和感を感じて目を覚ますと、私は泣いていた。
こめかみの違和感は涙だった。
「お母さん…っ」
思い出してまた涙が溢れてくる。
お母さんの死から3年。私は中学3年生になった。
お母さんは私の小学校卒業前に死んでしまった。
部屋の片付けが苦手。
勉強は嫌い。
運動はできない。
私は何一つ、変われていない。
「ただいま」
お父さんの声がした。気づくともう20時だった。
お母さんの事ばかり考えていれば涙が止まらない。
今まで忘れていた分、余計に罪悪感に苛まれる。
「よしっ、」
気合を入れて涙を拭いて。
1段ずつ階段を降りていく。
「お父さん、あのさ。」
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梅雨が明けて、入道雲が顔を出し始める季節になった。
私は行きたい高校に向けて、勉強を頑張っている。
お母さんにこれ以上、心配かけられないし。
見ててねお母さん。私、保育士になるよ。
お母さんと、おそろい。