公開中
路地裏のマジシャン
今回、誰かはわからなかったんですけど誰かから「マジシャンの物語」というリクエストが有りました。
8月からずっとコツコツ書いてきてやっと終わりました!
あと少ししか活動しませんが、よろしくお願いします!
もう私は、マジシャンを辞める。
---
私、ローナ・リーバーは、友人・アンジェリー・マンと一緒にマジシャンをやっていた。
最初は路地裏からどんどん有名になり、しまいには大舞台でもできるようになった。
でも…初めてのアンジェリーを使ったマジックをやったとき悲劇は起きた。
あの、箱の中に人が入って、ナイフを刺しても大丈夫だよ、という典型的なマジックだ。
私は、失敗した。
刺す場所を間違えた。
これまでで一番大きい大舞台で、箱からは血が滴った。
観客は悲鳴を上げ、私は混乱し、床に血が染み込み、舞台は台無しになった。
マジックのアイデアはいつもアンジェリーが考えてくれていたし、マジックがうまくいくように工夫してくれていた。
アンジェリーのいない今は、私に価値はない。
この国は法がゆるいから、殺人しても牢獄10日くらいだ。
そのため、すぐに私の罪は消えた。
でも、私の心の傷は消えない。
こんな私に生きる価値はない。
でももう親のいないアンジェリーの形見、とも言っていいのは私になる。
せめて、形見をなくしてはいけないと思う。でも、私はいらない。
要らなくなった私は、どうするべきなの………
---
「お嬢ちゃん、気分が悪いのかい?」
「え、いや…別に。どうしてそう思いましたか?」
「いや、浮かない顔してるし、顔色も悪いし」
考えることは体にきちんと出るんだ。
「そうですか…まあいいです。ところで、このパン美味しいですね」
「おおー、分かるんだね。値段は安いし味は素朴でも、ちゃんと俺が気持ちを込めて焼いたんだからね」
「え、おじさ…あなたが焼いたんですか?」
「うん。ここの連中では一番の出来だよ」
「明日も買いに来ます」
「おっ!嬉しいなぁ!じゃあ、名前を教えてくれる?覚えておきたいんだ。」
「ロ、ローナです」
「ローナちゃんね。おじちゃんはマリック。よろしくね」
「はい」
席を立ち、ドアを開ける。
最近食べた中で、いちばん美味しかった。
でも、笑って美味しそうに食べることは出来なかった。
流石にまだ笑えない。
アンジェリー、ごめんなさい。マリックさん、ごめんなさい。
---
「どうぞ見てください。ここに何の変哲もないトランプがあります。そこでこのトランプの♡を………」
つい癖で空きさえあればマジックの練習をしてしまう。
手慣れた手付きでトランプをシャッフルし、鞄にしまう。
「んー」
ン?なんか前に男の子がいる。
真ん中分けの可愛い男の子。
「ねえ、どうしたの?」
聞いてみた。
「んー」
何この子。ちゃんと喋らないわ。
「んー」
気づくと、私の鞄を指さしていた。
「マジック、やってほしいの?」
「んー」
あ、そっか。ここは結構田舎だから学校に行っていない子もいるんだ。ていうかこの子の年齢だったら学校以前に幼稚園か…
トランプを出して見せる。
「んー!」
よし、トランプを使ってマジックをやってほしかったのか。
「ん、じゃあここになんの変哲も…あ、そっか。言葉は勉強してないのか。じゃあ、このトランプ見て」
男の子の目の前にトランプを差し出す。
男の子はジロジロ見たあと納得したようにうなずいた。
「この、♡。♡、分かるかな…これ。」
指をさす。
すると男の子は手で♡を作ってうなずいた。
「これをしまって…」
コートのポケットの中に♡のカードをしまう。
「魔法をかけます。」
ちちんぷいぷい、という言葉と一緒に指をポッケトの周りで回して、魔法をかけるような仕草をする。
「じゃーん!鳩に変わったよ!」
ポケットの中から出てきたのは小鳩。ポケットからよじよじと出ると、大きな空に羽ばたいていった。
男の子はびっくりしたのか、口をポカーンと開き、目を見開いて空を見ていた。
「ん!!んー!」
手をパンパンと叩いて満面の笑みで喜んでくれている。
ふふ。たまにはこういう刺激も必要なのかな。
「ん。」
私の腰に抱きついた。
気に入ってくれたのかな。
また、明日もここに来てみようか。
---
「今日は変わり種ですか」
「おお、よく気づいたね。なんの隠し味か分かるかい?」
「……ベリー系のなにかですかね。色からしてブルーベリーとかかも。」
「チッチッチッチッ。これはね…ブルーベリーと、いちごのペーストなんだよ!」
「ああ。通りでブルーベリー単独よりほんのり甘みがあるのか。」
「ははは。ローナちゃんに美味しいって言われたら、もっと頑張りたくなってね。そのお陰でお客さんも増えたから、ローナちゃん、ありがとう。」
「いえ。私は何もしてません。」
「ローナちゃんはそういうとこが真面目だよなー。」
よく言われる。うんざりするくらい。
「でもいいと思う。また買ってきてね。」
私のお陰じゃ、ないよ。
---
路地裏には、また男の子がいた。
お腹が空いているようだった。
「ちょっと待って。」
美味しいパンを買うためにさっきの店に走る。
さっきの変わり種のパンを買ってきて男の子に渡す。
「あむあむ、ってして。もぐもぐ、って。」
口で食べる動きをして、なんとか食べ始めた。
とっても美味しそうに目を見開いて食べたので、こっちはとても嬉しくなった。
人の笑顔ってこんなに、誰かを幸せにできるんだね。
そう思った。
---
「今日はね、このパンを増やしたいと思うよ。」
「んー?」
男の子が私にくれた小さなパンのかけら。
それをつまんで見せる。
「これ、いっぱいにする、たくさん、分かる?」
手を大きく広げていっぱい、を表す。
理解したのかわからないけど瞬きをしたから進める。
「これに、ちちんぷいぷいします。」
指でくるくる回して、おーけー、とつぶやく。
「これをポケットにしまうよ。」
ポケットにパンのかけらを入れる。
そうすると…
「じゃーん、3個になっちゃった!」
実際これはマジックでもなんでも無い。
ポケットに入れていたパン3個とパンのかけらを交換して出しただけ。
本当に種も仕掛けもないマジックだけど、喜んでくれる子もいるんだ。
そのパンを男の子に渡して、今日は帰った。
---
ここはどこだろう。暗くてわからない。
しばらくして目が慣れてくると、場所がわかった。
ここは、私が失敗した、あのマジックホールだ。
中央には赤黒いなにかがあった。
血だ。
おかしい。
あれからもう随分立っているのに、まだ掃除されていないわけがない。
ぴちゃ。
触ってみても、乾いていなく、生暖かい。
今、何月何日?
でも、それを確かめるすべはない。
「許さないから」
この声は。
少し鼻にかかった、でも透き通った声。
アンジェリーの声だ。
「許さないから」
どこから聞こえる?
よく耳をすませると、それは舞台裏からだとわかった。
怖い。でも、確かめなきゃ。
本能か何かが反応して、舞台裏に行った。
「許さないから」
そこには白い顔をした、血が垂れたアンジェリーがいた。
「許さない。許せない。」
アンジェリーが首を掴む。
「永遠に許せない」
こんなに強い力、非力なアンジェリーにはなかったはずなのに。
「私と違って、お前は地獄行きだよ」
苦しくなった。息ができない。
フッと、意識が途切れた。
---
よかった。あれは夢だったみたいだ。
現実だったら困る。
アンジェリーは、あんな事言う性格のわけないから。
あれが本当だったら、私はアンジェリーを信用していたことをを悔やむかもしれないから。
私は、こういう性格だから嫌になる。だから、今の今までずっとこんなに苦しんできた。
性格に呪縛されている。
私にピッタリの言葉だ。
---
いつの日か、男の子はいなくなった。
そして、多分5年も10年もたった。
何をしているか、覚えてない。
ただひたすら、起きて、寝るだけ。
そうして、あのパン屋さんでまた変わり種パンを買ったとき。
「ああ、居た。」
大人っぽく、少しハスキーボイス。アンジェリーと似ていて、少し鼻にかかっている声。
赤髪で、長身。少しそばかすがあるけど、肌はきれい。目はアンジェリー、そして私と一緒で、青色だった。
「ああー、誰だかわかる?」
わ、か、る…
どう見ても、声変わりしていても、この子は、
あの子だ。
「名前はリッキー・ルーク。よろしく。あのお姉さんだよね。いっつもパンをくれたよね。マジックをやってくれたり。本当にありがとう。」
私のことを覚えてくれていた人が、
私に感謝してくれる人が、
眼の前にいることに、
ただ感動している。
ほろり、と音を立てながら眼から水が流れ落ちた。
「ええ、だだだ、大丈夫ですかぁ!?あああの、パン屋の店長さん、なんか…心…ええ…ああ…」
しどろもどろになって、言葉がつっかえてしまう男の子。いや、ルークは
子供っぽい脚付きでよたよたと、でもせかせかと、店奥に走っていった。
どこへ行くんだろうと心の隅で思い、目で追ってみるが、水が邪魔してよく見えない。ああ、もどかしい。
ガシャンガシャン、ドタバタと音を立てながら出てきたルークは、埃まみれになりながら出てきた。
コップいっぱいの水と、小さなジャムパン──私が彼によく上げていたものだ──をつかんできた。
その水を渡しに差し出すので、一口のんだ。
そして息を呑んだ。
この水、|ただの水じゃない。《・・・・・・・ 》
透き通った水の中に、ほのかな甘みがある。
これはベリー?それともストロベリー?水が透明なのでわからない。
あ、もしかして…
「…もしかして、これ、ブルーベリーといちごのペースト風味…?」
しばらく沈黙があった。いや、完全な沈黙じゃない。
ルークが店主のマリックさんにヒソヒソと質問をして、マリックさんが頷いた。
「「そうだよ」」
二人の声が重なる。
私の思い出の味がしたんだ。
水を飲みきって、嗚咽が途切れた。
ルークにコップを渡す。
そうすると今度はジャムパンを持ってきた。
懐かしい味のジャムパンを頬張ると、感情が溢れてきてしまって、泣きながら食べた。少し水でパンが湿ってしまったけど、それも美味しいということに気づく。
全部食べて、スクっと立ち上がると、ルークが私より身長が高い。
あの水のコップを持って、嬉しそうに笑った。
次の瞬間、水が増えた。それをルークは高々と飲み干した。
水で喉が潤ったのか、ハスキーボイスが少し潤ったような気がした。
「僕、マジシャンになることにしたんだ」
白い細い指を頭に持っていって、ぽりぽりと掻く。
「この国では2人組マジシャンが流行ってからずっとマジシャンはだいたい2人組みでしょ?
1人のマジシャンなんて今どき置いてけぼりさ。なのに1人でマジシャンをやってるなんて、すごく珍しいと思ったんだ。だから、もしかして、なにか事情があって1人になったんじゃないかと思ったんだ。」
まるで心の中を見られたかのような名推理に思わず口が空いてしまう。
「もし、何らかの理由があって相方が居なくなっちゃったんなら、僕が変わりになろうか?」
ひっと声が出る。
怖いんじゃない。
自分がただ、パンをあげていただけの少年が、自分と一緒にマジックを?
今更だけど、ルークの足元から頭まで舐めるように見てみる。
この子、アンジェリーと共通点が多い。
髪も赤毛だし、目も青色だし、色白だし…
まるでアンジェリーの生まれ変わりのよう。
それなら、一緒に活動することで、アンジェリーに…償えるかな。
私が発した言葉を聞くと、ルークはニコっと笑って
「だよね」
とつぶやいた。
---
「この角度だとボールが見えてしまうよ」
「じゃあハンカチで覆ったら?」
「こんな感じ?アブラカタブラ〜へへっ」
私は、いま、ルークと一緒にマジックをやっている。
アンジェリーと組んでいたときとは違って、自分もマジックの仕掛けづくりに尽くしている。
アンジェリーにもこうしてやってあげればな、と今更後悔するけど、もう遅いことはわかっている。
元々アンジェリーは私より年下だったし、この子をアンジェリーだと思って、過ごすことにした。
幕が開き、黄金の光が現れる。眩しくて思わず眼を伏せる。
眼が慣れてきたら、沢山の人が見えた。
輝く黄金の照明に、私達を待っていた観客たち。
わー、きゃー、という観客の声が耳の中でこだまする。
これから、アンジェリーが居なくなった会場で。
アンジェリーを犯してしまったあのマジックを。
そっくりそのまま、やって見せる。
「切られるのは、どうしても私がいいの。」
私はルークに落ち着いて話した。
本番の前日、私が切る側、ルークが切られる側の予定だった。
自分が切る側ってことのトラウマというのもあるし、アンジェリーの立場になってみたいっていうのもあるけど、、
もし私が死ねるなら晴れ舞台がいいから。
実際、優しいルークは「わかった」と一言で終わった。
---
いま、ここは舞台裏。
もう心の準備はできている。
だいぶ上達が早いルークといえど、まだ未熟だ。
切る場所を間違って教えておけば、私は
--- 簡単に死ぬことができる。 ---
一歩、踏み出そうとした瞬間。
怖くなった。
私が若い頃経験したあの思い出は、今も脳裏にこべりついて離れない。
ルークに、同じ思いをさせるのか。
私達が組んでから2年が経つ。
あの頃の私よりずっと若いルークが、あの若さで吹き出す赤い液体を浴びて、自分に殺人の容疑をかけられて、世間から拒まれる存在になったら、あの子の未来はなくなる。
私の決断によって、一人の命が消え失せ、一人が濡れ衣に苦しむ。
あってはならない。
唯一の保護者である私が、居なくなる…?
だめ、だ。
一歩踏み出した足を戻して、はにかみながら振り向く。
「刺す位置、もう1回おさらいしようか」
微妙な終わり方ですみません…
あと少ししか活動しませんが、よろしくお願いいたします。
長すぎて読む気無くなりますよね…
好評だったら泡沫本人による朗読音声を配布します。
ファンレターから教えてください。