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色々教えてもらうのだ!
「これが魔術具です! 魔力を送り込むことで作動させられるんですよ」
にこやかにランプっぽいのを見せるクレアさん。クレアさんがそれを持つと、パアッと光った。
「……わぉ……」
文明の利器感がすごい。
私の頭に最初に浮かんだのは、その言葉だった。
ワンタッチーーといっても、エネルギー源は自分なのだがーーのランプなんて、どう考えても電気を元にしたランプを想像せざるを得ない。
ここに来て早一ヶ月ちょいが過ぎているが、やはり私の中には日本の文化が根強く残っているようである。
「えーと、これの原料になっているのはなんの変哲もない木やら金属やらなんですが、この布張りのところの中心にに魔石がはいっているんです」
クレアさんはランプをひっくり返して、つるつるの丸っこい綺麗な石を見せた。その魔石は、暖色系の光を放っている。さらに、眩しくてあまり良く見えないが、石の中になにやら紋章が浮かんでいるではないか。
「この照明の魔術具の場合は、照明の魔石ですね。この紋章、見えますか? ……あ、明かりがついてると良く見えませんよね、すみません。……よし、っと。それで、それが魔石の種類を表しているんです」
説明途中にわざわざ明かりを消しつつクレアさんは丁寧に説明してくれる。
色とか模様とかでなく一定の紋章で判断するというのがいかにもファンタジーである。こういう、日本とは明らかに違う文化を見るとき時、自分が異世界にいるのだということを実感するのである。
例えば、髪の毛を整えるために櫛をといた後、見た目を確認するために鏡を取り出すと銅鏡であったりだとか。
例えば、朝起きるといつの間にかシャネルさんが私の身体から顔と右腕だけ飛び出させていたりだとか。
例えば、クレアさんの料理を横から眺めている時、何の気なしに火の魔法で炎を灯して食材を焼いたりだとか。
例えば、その焼かれている食材が魔法でふわふわ浮いている状態で炙られていたりだとか。
例えば、その食材がキャベツに似た野菜なのだが、その食材の名前がシャケであったりだとか。
とにかくもう、日常が非日常というか、無駄にファンタジックというか、なんというか、みたいな状態なのである。
「ここまでで、質問あります?」
「あ、ないです!」
反射的にそう答える。
私はラノベっ子というわけではない。ゲームしかやっていない。しかも、どちらかというとマリ◯とかカービ◯とかピクミ◯とか王道のやつばっかりしていたので、RPGとかはからっきしだ。なのでファンタジーは良く分からない。ハリー・◯ッターは、詠んだことはあるが文字数の多さにノックアウトした。
なので半分くらいしか理解できなかったが、そこはやはりコミュ障、聞けるわけがないのである。
「ええと、じゃあ続けますね。魔術具には、生活を便利にするという目的があります。でも、攻撃に使うものもしばしばあるので、気を付けてください。閃光の魔術具とかがいい例ですね。扱いにはくれぐれも、十分、くれぐれも注意してくださいね!」
「くれぐれも」を二回も使って注意してくれる。だがしかし、私は余計に不安になっていた。あれである、理科の実験で注意されると逆に緊張感が増してしまうというあれである。
「閃光の魔術具は、あっちで言う閃光弾のことよ。下手したら失明するからね」
ご親切にありがとうございます、シャネルさん。でも逆に怖いです。
「特にあんたは魔力量が多いんだから。魔力込めすぎたら……ふふ」
ご丁寧にありがとうございます、シャネルさん。わざとやってます?
……魔力量?
「私の魔力ってそんな多いんですか?」
「あっきれた。あたりまえでしょ?」
シャネルさんが、呆れたオーラ全開にしながら言う。
「呆れた」と言うにとどまらず、手を腰に当て、呆れ顔をし、ため息をつく様子に私の精神がごりごりと削られていった。
「だって、あたしとあんたは融合してるんだから」
「あー……そういえば、序列だか位列だかが一位とか言ってたような……すごいです……」
「そうよ。ふふん、もっと褒めなさい」
「あのー、そろそろ次の説明を……」
シャネルさんとそんな会話を繰り広げていると、クレアさんが困り顔で割り込んできた。
「わひゃ、すみません!」
「あ、いいんですよ。ちゃんと聞いてくだされば」
クレアさんがニコニコ笑顔で語りかける。
……おかしいな、なんで脅しみたく聞こえるんだろう? いやいや、いくらなんでも失礼だぞ、私。そんなわけ……そんなわけ……あれ、今までの所業を思い出すとそんなわけある気がしてくるな……?
今までの所業。
無理矢理引きずって拉致したり無理矢理地獄の授業を課したり無理矢理テストさせたり無理矢理受付嬢させようとしたり。
結論。……信用ならぬ!
しかしまあ、それに気づいたところでどうにかなるというわけでもなく。
「はい」
私は素直にうなずいて見せた。
「お、やってるか?」
「えーと、これが加熱の魔石、それからこれが冷却の魔石ですね。これらはよく使うので、開発はしないにしても不良品か確かめるために覚えておいた方がいいですよ。これがリストです」
「うぐっ……いっぱいありますね。私暗記系苦手なんですけど……」
「まあぜんぶ覚えなくてもいいですよ。基本的なのは見分けられるようにってことです」
「おーい、来たぞー」
「これが照明の魔石で、これが閃光の魔石です。部屋の照明とかに使うのが照明の魔石で、閃光の魔石はもっと明るくする必要があるときに使います。閃光の魔術具とか……」
「え、ちょ、近づけないでください! 怖いですって!」
「おいこら……」
「シアンさんは、異世界人なんですよね? あっちの世界にあった便利なものとか思い出したら、是非教えてください!」
「あのー、それもしや私研究に引っ張り出されるやつでは……?」
「話を聞けぇー!!」
「うわああああああああああああああああああああああああ!」
「うるっせええええええええええええええええええええええ!」
私の叫び声をエドワールさ……いや、店長が叫んで相殺する。
……が、偶然波長が合ってしまったようで、音はさらに増幅されて私たちの耳に届いた。
「「「ぎゃああああああああ!」」」
三人が転げ回る。のたうち回る。悶え回る。
かなりカオスな光景であった。
「あら、居たんですね店長」
それを一人涼しい顔で眺めるクレアさん。
「お前……俺に気づいてたな……?」
「なんのことでしょう?」
またも涼しい顔で受け流すクレアさん。しかし、あれほど武術を極めているのだ、絶対に気配に気づいていたと思う。
店長に気が付いていたのにどうして言わなかったのか。そして、あの爆音にどうやって耐えたのか。
なぜか私はそれが気になって仕方がないのであった。
結局、私たちが復帰を果たしたのは十分後のことだった。
後日
シアン「あれにどうやって耐えたんですか?」
クレア姐さん「バリア張りました。あれ防音効果もあるので」
万能すぎるバリア。
ちなみにスキル名は、ノーマルスキル「盾(シールド)」です。