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Prologue「入学式」
鏡の前に立って髪を整える。
この黒い髪も、随分見慣れてきた。
今日は入学式。
この異能学園へ通い、僕の異能の謎を解くための第一歩だ。
「いってきます」
とは言えど。
入学式で校長先生の長ーい話を聞く真面目な学生など、どこにいるというのか。
少なくとも、僕はそうではない。
いや、始めのうちはきちんと聞いていたが。
でも、入学説明会のときに配られたパンフレットに書かれていたことと同じような内容を繰り返すのだ。途中から聞き流すようになってしまった。
どうせ周りの人たちもほとんどがそうだろう――と周りを見渡すと。
意外にも、校長先生の目を見てしっかり話を聞いているような人がほとんどだった。
ただ一人――闇のように深い黒髪の少年だけが、退屈そうに目を閉じていた。
「それでは諸君! この学園で仲間と切磋琢磨し、自身の異能を磨きたまえ!」
ようやく終わったらしい。
座りっぱなしで肩がこりそうだ。
今すぐ席を立ちたいが、入学式でそれをするわけにもいかない。
「それでは、諸連絡に移ります」
聞き逃すと後で自分が困る――聞く相手がいないからだ――ため、忘れないように頭の中のメモ帳にメモした。
諸連絡によると、これから各クラスに移動して学級開き、その後に学年開きを行うらしい。
確か僕のクラスは、A組だったはず。
人の流れに乗るようにして、自分のクラスへ移動した。
「私がこのクラスの担任の|成《なる》|瀬《せ》|朝《あさ》|陽《ひ》だ。これから一年、君たちと一緒にこのクラスで過ごしていく。よろしくな」
茶色に近い色の髪の先生――成瀬先生がA組の担任らしい。
「「「よろしくお願いしまーす」」」
一応僕もクラスのみんなに混ざって言っておいた。
「それでは、学級開きということで、出席番号順に自分の名前と異能を言っていってくれ」
このクラスは四十人。
僕の出席番号は十九番だから、ちょうど半分くらいのところだ。
「|伊《い》|集《じゅう》|院《いん》|隆《りゅう》|二《じ》です。異能は『覇道』、よろしくお願いします」
名字といい名前といい、お金持ちの名家の人っぽい。
なんて、どうでもいいことを考えながら、僕の順番が回ってくるのを待つ。
前の席の明るい髪色の女の子が座るのを見て、僕は立つ。
「|九十九《つくも》|一《はじめ》です。僕の異能は、詳細不明で使用不可です。九十九……99+1で|百《もも》と呼ばれることもあります。これからよろしくお願いします」
あだ名の『百』。
小学生の頃に付けられたものだ。
教室がざわめく。
『詳細不明で使用不可の異能』。
僕だって、小学六年生の初めて知ったときは驚いた。
鑑定した人によると、『|――《Error》』と表示されていたそうだ。
エラー……恐らく何か問題があって使えないし名前も表示されないのだろう。
その『問題』の《《内容》》に一切心当たりがないが。
まあ、それを知るために普通の中学校ではなく、この異能学園に進学したのだ。
教室の様子に気がつかないふりをして着席する。
間髪を入れずに次の人が立った。
「|十《とう》|五《ご》|彰《あきら》だ。異能は『|終焉の黒《Black of the end》』。あー、よく聞かれるが|十《じゅう》|五《ご》と書いて|十《とう》|五《ご》と読む。よろしく」
入学式のときに目を閉じていた人だった。
面倒なので省略するが、これで四十人の自己紹介が終わった。
それにしても……憂鬱だ。
異能を使えない僕がこの学園に入学できたのは、何か特別な能力があってのことだろうと思われているだろうから。
実際は、そんなもの一切ない。
入学試験で測られるのは、異能を扱うためのエネルギーの量とこの学園にふさわしい学力があるかだけだ。
学力試験は簡単だったので普通に突破したし、僕は異能を使えないくせに、なぜだか内包するエネルギーだけはやたらと多いので、普通に入学試験を突破し入学した。
これから僕に向けられるであろう侮蔑の視線を想像すると、つい数週間前までの小学校時代を思い出して足が竦む……が、それでも自分を奮い立たせる。
六歳のころの記憶が蘇る。
ちょうど、異能が目覚めるといわれる時期。
あの日、僕は公園で遊んでいた。
いつもと違ったことはしていなかったはずだ。
だというのに、突然、脳内に声が響いた。
《――Error――Error――Error
――対象の器を確認
――Error――Error
――規定値に達していません
――Error
――機能の一部封印を試行
――Error
――再試行
――Error――Error
――一時的完全封印を試行
――続いて、『鍵』の作成に移行
――Key『|――《??》』
――対象に埋め込みます
――完了しました
――あなたの行く末に、幸あらんことを》
「誰!?」
そう叫んでみたものの、周囲には母以外の人間はいなくて。
結局、心配した母に抱かれてそのまま眠ってしまった。
この出来事は、疲れた僕が夢と現実を混同してしまっただけということにして、僕と母の胸の中にだけある。
何か、触れてはいけないものに触れてしまいそうだったから。
でも、僕の異能『|――《Error》』と何か関係がありそうで、だから僕はここに入学して手がかりがないか探している。
異能についての知識も、力もない。
けれど、『知りたい』という気持ちは人一倍強い。
僕は僕の異能について手がかりが得られるなら、どんな死地にだって赴くさ。
そのための努力なら、惜しまない。
主人公 九十九一
異能『|――《Error》』
お読み頂きありがとうございます。
初回から気になる要素を入れてみました。
この作品は、【最低週一回更新】をモットーに不定期更新する予定です。
暇なときにでも、見つけて読んで下されば幸いです。
それでは、また次の更新でお会いしましょう。