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**七瀬の真実**
翌日の放課後、柚子月はひとり、駅前の古びた喫茶店のドアを押した。
中は薄暗く、レトロなシャンデリアがゆっくりと回っている。
窓際の席に、整った黒髪の女性が座っていた。
スーツ姿で、彼女はまっすぐに柚子月を見た。
「……来てくれてありがとう。」
彼女——七瀬は、思っていたよりも大人びて見えた。表情も言葉も、どこか距離を保っている。
柚子月が向かいに座ると、すぐに本題に入った。
「……私ね、まだ蓮のことを好きだって思ってるわけじゃない。でも、放っておけないの。彼はね、優しいけど……すぐ、誰かの期待に応えようとする。だから、時々自分を見失うの。」
柚子月は静かに聞いていた。
蓮のことを、確かにそういう人だと、自分も感じていた。
「私たち、あのとき別れたのは、お互いのせいだった。蓮は、いつもどこか遠くを見ていて……その中心に私はいなかった。」
七瀬は、コーヒーに口をつけながら、続ける。
「ねえ、あなたは、彼の“今”しか見ていないように思える。過去の彼を、受け入れられる?」
柚子月の胸が、きゅっと締めつけられる。
「彼は、“嘘”が書けない人なの。だから、物語には全部、本当のことが出る。私とのことも……あなたのことも。ねえ、それを全部読める? 受け止められる?」
質問の答えは、すぐには出せなかった。
彼女の言葉の奥にある、未練とも忠告ともつかない感情が、静かに刺さってくる。
「私が何を言いたいかっていうとね、彼はあなたの理想でい続けることはできないよってこと。」
——蓮の“本当の姿”。
それを柚子月は、まだほんの一部しか知らないのかもしれない。
ただの恋では終われないと願ったあの日から、心は確かに進んできた。
でも今、その歩みが問われている気がした。
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次回:第23話「揺れる心」
この言葉を受けて揺らぐ柚子月の内面と、蓮との対話。