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火花の夢
戦争を体験した世代じゃないが。ナイーブな話
閲覧注意
地獄だった。
あれは、本当に、地獄だった。
地獄なんて見たことも行ったこともない僕たちが、口を揃えて叫んだ、嘯いた、喚いた、囁いた。
地獄だった。あれは地獄だった。
僕たちは地獄を見た。
火の塊。
たちこめた臭気。
腕。爪。手。脚。胴。自由にならない。
地面が揺れる。
水が溶ける。
悲鳴が聞こえる。
空は、空の色は、泣いていて
心臓が血を送り出そうと躍起になって肺を叱咤して、どくどくと怒るから僕はうまく息を吸うことができなくて、同じ音で耳鳴りがして汗が噴き出してばたばた落ちて、全身の毛が針になって突き刺さったように痛くて熱くて寒くて
あれは地獄だった。
大きな屋敷だった。誰かの家。
そこに、洒落た着物の人たちが何人もいて、手に白いタオルを何枚も持っていた。
大げさな量の血とぱっくり開いた傷を、タオルで押さえて、水で洗って、止血して、僕は傷口からまるい赤血球が落ちていくのを想像していて、この家の清潔な空気を吸って泣きたくなった。
呻く、低音、高音、叫ぶ、旗を振る、怖い、怖い、怖い、こわい、こわい、こわい、こわい、こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい
怖い。
お母さんとお兄ちゃんとお姉ちゃんとはなとポチは大丈夫かな。生きているのかな。
お父さんは、お父さんは、行ってしまった。
誇らしいと、みんなに讃えられて、ああ、
帰ってこないとわかっている。
百合の花、生けてある、生かされている、水と花瓶で、生かされている、僕たちも、生かされている。
手元の花を手折った。やすい、たかい、僕たちの命。