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学生は巡り合う
viti
「あー!つかれた!!」90分と言いう長い間、お教のように聞こえてくる大学の講義を聞き続け、やっと解放された大学生たちが続々と講堂から流れ出てくる。その中でも「今日も難しかったねぇ」とひときわよく通る元気な声で周りの友人と談笑しているのが俺。「りょうちゃん今日も頼む!わかりやすく教えてくれ〜!」「またかよ!いいぜ、けどまた今度な」りょうと呼ばれているが、名前は|涼太《りょうた》といい、その性格からいろいろな人に好かれる、いわゆる愛されキャラといわれる人間だ。俺の周りにはいつも人がいる。「りょうくん!今日も飲み行く?」「いや今日はやめとくわ!」しかし、最近は違う。最近兄貴が、喫茶店を開いたのだ。
喫茶店を開く話を聞いたのは今から3ヶ月前。兄貴の夢だったから、唐突な提案ではなかったし、何なら手伝いに行くと息巻いていた。滑り出し良好で、平日休日問わず、お客さんは来るようだ。かく言う自分もたまにお店に顔を出しては、兄貴を少し手伝い、小さいパンケーキとメロンソーダをご馳走してもらっていた。しかしそんな兄貴もバイトを雇ったらしく、俺は手伝いではなく、客としてお店にいけるようになった。そんな矢先にお店を訪れると、同い年くらいのきれいな女性がお店のエプロンを巻いて接客しているではないか。兄貴曰く、新しいバイトの娘で名は|京花《きょうか》ちゃんというらしい。正直に言おう。今俺はその娘に心を奪われている。友達を連れてここに来なくなったのもそのせいだ。それから俺は暇さえあればお店に行き、その子に会いに行くようになったのだ。
そして今日も、いつもの時間にお店に行った。するとコーヒー片手に、どこか異質なオーラを漂わせるお姉さんがいた。有名人かな?なんて思いつつ京花ちゃんの案内を受け席に座る。あの娘には「本当にこれが好きなんだね」と言われたが、「君に合うために来たんだ」なんて口が裂けても言えるはずがなく「やっぱりここのパンケーキが一番美味しいんだよな」なんて奇天烈なことを言ってしまった。照れ隠しにパンケーキを一口。やっぱり美味しい。奇天烈なことなんて言ったが、あれは嘘偽り無い本心だ。にしてもお姉さんがずっとこっちを見ている…顔に出てたんだろうか。「なんかついてますかね…?」勇気を振り絞って聞いてみる。すると、一瞬驚いた顔をして、「あぁ不快にさせてしまっていたら申し訳ない。仕事柄、つい人をまじまじと観察してしまう質でね。」と教えてくれた。話をしていくうちにこの女性がアルス先生という、様々な賞を総なめしているすごい小説家さんということを知った。俺はすごいお方と話していたのか…せっかくなのでと思いパンケーキを食べてもらったが、兄貴と話しているうちに、すぐに食べ終わってしまった。よほど気に入ってくれたのだろう。満足そうに帰っていったのを見届けだあとすぐに京花ちゃんがコッチに寄ってきて「だれ?知り合い?」と小首を傾げて聞いてくる。唐突な上目遣いに、少し目を逸らしながら、「すごい小説家さんだよ。ラッキーだった」なんて当たり障りのない回答しかできない自分が腹立たしい。京花ちゃんは「ふーん」と生返事をしたと思ったら急に顔を近づけて来た。「そうだ!ねぇねぇ、こないだ遊園地のペアチケット当てたんだけどさ。一緒にいかない?」一瞬何が起ったかわからなかったが、耳まで熱くなる感覚を無視して返事を必死で振り絞る。「………ぜひお願いします…」俺の中で何かが動き出した気がした。