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六、理不尽
このへん、バカかってぐらい駆け足で話が進んでいきます。登場人物の心情がどうしたんだよっていうレベルで雑。
「なんで壱だけ長付きの侍女になるんやって…」
「そんなの、私が聞きたいよ」
屋敷の末端部分の洗濯部屋。会ったのはたまたまだった。出会い頭、小野は暗い声でぶつけた。
小野はうつむく。
「私じゃだめやったんかな」
「そんなこと」
「剣は壱より上手いし! 組織に入るの決めたんも私やし! それでも私じゃだめやったんやな」
彼女は泣いていた。子供のように地団駄を踏む。
壱はそれをどうすることもできない。わからなかった。
このとき、彼女を慰められていたら。納得してもらえていたなら。私は、この時のことを後悔することになる。
何年経っても消えない。私はどうしたらよかったのだろう。
ーーー
「長」
小野は、ひたすら歩く。長はどこにいるのか聞けば、組織の奥深くにある、長しか入れぬ間といった。
護衛はいない。不思議に思いつつ、小野は歩を進めた。
「長っ」
引き戸を勢いよく開けた。
「なぜ来た」
「壱と私はなんで、こんなにも待遇が違うんですか。壱は、あなたについて萌木様の城に行っていると聞きましたが」
長は、小野をじっと見つめた。
「何か言ってくださいよ!」
小野は部屋に立ち入る。そのまま長に詰め寄る。
長は、静かな瞳をしていた。
「何で…」
「君、この部屋に入ったね」
ちゃき、という音。刀が鳴る音。
少し高くくぐもった音が、次いで鳴る。中途半端に開け放たれた戸から漏れる光は、鋒を怪しく照らした。
「あっ」
「君が誰かは心得ないが、ここの部屋に入ったものの命はない。斬らせてもらおう」
済まなんだ。そう言いながら、太刀を構える。
「まっ、まって」
腰の抜けた小野は、床を手で後ずさる。手が震える。
「しらなくて」
「待ってください!!!」
声を上げたのは、駆け込んできた壱だ。はぁ、はぁ、と壱は肩で息をする。
刃が光を反射している。斬ろうとしているのは、一目見ただけで明らかだった。
「なんでこんな状況になってるのかはわかんないけど! 長、あなたも、そんなに早まることはないんじゃないですか!」
禁忌をした人を守る行為は、同じく斬られるかもしれない。でも壱は、小野が斬られることだけは承知できない。
「壱……」
長は、無言で刃を鞘にしまう。壱は、胸を撫で下ろした。
「君がそうまでいうのなら、な」
長はうすく笑った。小野は反対に顔を歪める。
「君たちに一つ、提案をしよう」
刀を握る手は、こまかく震えている。それは、対する相手も同じだ。
壱と小野は、長の間で、|鋒《きっさき》を向け合い対峙している。
『君たちが長の間に入った事実は変わらない。でも、二人とも殺してしまうのは私も心苦しい。だから、君たちが戦ってくれ。生き残った方は、私が手塩をかけて次期の長に育て上げよう』
長は、光の差し込む障子を背に、床几に腰掛る。こちらを試すような瞳は、どこか楽しげだ。
『君の持っていた刀を返そう』
今手にあるのは、父の打った刀だった。よく手に馴染むのは、十六年共にしてきたからか。
死にたくない。
逃げられない。
長が、不敵に微笑んだ。
片手を軽く持ちあげて、指を鳴らして、
「はじめ」
ぱちん、という小気味良い音。
それでいて、二人をどん底へと突き落とすような音。
「…わたしが、私が、勝つ」
小野が、刀を振るって走ってきた。避けなきゃ死ぬ。斬らなきゃ自分が死ぬ。
「はあっ」
間一髪避けた。小野は後ろに回っている。早く後ろを。
「はああああああっ」
小野は、ひたすら一直線に走る。
その先は、壱ではない。
「なんと」
長だった。
小野の振り下ろす、美しい曲線は、長に吸い込まれるように思えた。
「馬鹿をするなよ」
「な……」
長の右手にいつのまにか握られた刀。
それは、小野の腹部を、しずかに貫いていた。
2025/6/12 作成
ストーリー、駆け足にもほどがある。