公開中
第7話:沸点の低い怪物
「……あ、秋葉、くん……?」
窓の外、庭先に立つ真蓮の姿を見て、愛菜は息を呑んだ。
なぜここが分かったのか、なぜ今この瞬間に――。けれど、そんな疑問を吹き飛ばすほどの凄まじい衝撃が、彼女の体を襲った。
「――よそ見してんじゃねえ!!」
叔父の分厚い掌が、愛菜の頬を鋭く打つ。
「あぅっ……!」
愛菜は床に叩きつけられ、視界がチカチカと火花を散らした。口の中に鉄の味が広がる。
「愛菜!!」
外で真蓮が叫ぶ。窓ガラスを激しく叩く音が聞こえる。
「ふん……なんだ、あのガキ。お前の男か? ちょうどいい、まとめて教育してやるよ」
叔父の顔は、酒と歪んだ支配欲で土気色に濁っていた。
彼は窓を乱暴に開け放ち、外にいる真蓮を睨みつける。
「ガキ、失せろ。これは家族の問題だ。警察を呼ばれたくなければな……」
「……家族だと?」
真蓮の声は、愛菜が今まで聞いたことがないほど低く、地を這うように冷たかった。
彼は濡れた縁側に土足で上がり込み、叔父の鼻先まで歩み寄る。
体格差は大人と子供だ。それでも、真蓮から放たれる圧倒的な「怒りの熱量」が、叔父の殺気を押し返していく。
「こんな痣を作って、泣かせて……。家族なんて言葉、お前の汚い口から二度と吐くんじゃねえよ」
「なんだと……この小僧がぁ!!」
叔父が激昂し、空の酒瓶を振り上げた。
「秋葉くん、逃げて……!!」
愛菜が悲鳴を上げる。
しかし、真蓮は一歩も引かなかった。
瓶が真蓮の肩を強打し、鈍い音が響く。
「っ……!!」
顔をしかめる真蓮。だが、彼は痛みなど感じていないかのように、叔父の腕を力任せに掴み返した。
「痛くも痒くもねーよ。……お前が愛菜に与えた痛みは、こんなもんじゃねーだろ!!」
真蓮の瞳が、暗闇の中で赤く燃え上がる。
その「光」は、愛菜を傷つける叔父にとっては、自分たちの醜い悪意を焼き尽くす、恐ろしい業火に見えたに違いない。
「愛菜、こっちに来い!」
真蓮が愛菜に手を差し出す。
血の滲んだ肩を震わせながらも、彼は最高に格好悪い、けれど誰よりも頼もしい笑顔を作ってみせた。
「約束しただろ。俺が、世界で一番静かな男になってやるって。……まずは、この『うるせえ怪物』を黙らせてからな」
その瞬間、愛菜の心の中で何かが弾けた。
今まで、叔父を怒らせないように、ただ息を潜めていた「静かな絶望」が、真蓮の情熱に呼応して、明日を求める「希望」の叫びへと変わっていく。
愛菜は震える手を伸ばし、真蓮の服をぎゅっと掴んだ。
🔚