円周率の生贄

いやにふわふわとした微睡みの中、眩しいほどの陽射しが瞼をじりじりと焼き、その暑さから飛び起きるようにして身体は大きく跳ねた。 目の前に広がる鬱蒼とした熱帯林、熱を帯びた白い砂浜、驚くほど青い空、地平線まで続く大海原。 僕には、まるで理解ができなかった。 この島とは不釣り合いな黒い学ランと白い上履き。そして、委員長と名された名札。僕はこの南国のような世界とは切り離されたような格好をしていた。 「…なんだ……これ…？」 砂浜に足音をつけながら、歩いていく先々でこの自然の島とは不釣り合いな人工物を僕は見つけ、藁にもすがる思いで近づいていった。 真っ白の立て看板の中に砂がつきつつも、見やすい黒文字で奇妙なものが書かれていた。 『おめでとうございます！ 貴方は314兆1592億6535万8979人目の“マドロミ様”の“贄”に選ばれました！ これはとても誇らしいことです！どうぞ、死んでください！』 僕は、それに愕然として瞼を何回も、何回も動かすことしかできなかった。 “無人島”、“マドロミ様”、“贄”。 まるで、閉鎖的な集落の悍ましい伝統のような、人身御供。 気味が悪くなって砂浜を蹴って、駆け出していく内に誰かが呼び止めるような声がする。それがだんだんと酷くなって、耳元にまでやってくるように騒々しくなる。 やがて、それは何かのアラーム音のようになって耳をつんざき、僕は目を見開いた。 見覚えしかない、いつもの自室と温かい布団。起きたばかりの、僕。