閲覧設定

基本設定

※本文色のカスタマイズはこちら
※フォントのカスタマイズはこちら

詳細設定

※横組みはタブレットサイズ以上のみ反映

オプション設定

名前変換設定

この小説には名前変換が設定されています。以下の単語を変換することができます。空白の場合は変換されません。入力した単語はブラウザに保存され次回から選択できるようになります

公開中

遺書

私はただ、死にたかっただけなんだ。私は天界も親とそう変わらないのだと常々感じる。「モブ死ね」「 クソ陰キャ」神様は殺人鬼じゃないか。いろんな手段で人を追い詰めて殺してしまうなんて。小さい頃から不幸と常に隣り合わせの人生だった。神様だって天国じゃなく地獄に行くべき。私達は神様の道具じゃない――と信じていたい。日に日にエスカレートしていく嫌がらせも絶対に誰にも相談することはしなかった。ネットの中では私は偉人になることができた。「あらあら、そんなに急いで食べなくてもいいのよ。だぁれも取らないからゆっくり食べなさい。」「そうだぞ。ママの料理をもっと味わったほうが良いぞ。」「…うん…!ほんとに…ほんとに美味しいよ。」私に向けられる笑顔は時偶恐ろしく感じるようになってしまった。通報することは絶対にできないけど誰かに話を聞いてもらうことはできる。偉人にだってなれるのだから私が生きている意味、存在証明が出来た。少しでも機嫌を損ねると殴られ、ビンタされ、首を絞められ、思い切り髪を引っ張る。そうだとするのならどこでその愛は捨てられたのだろう。どうして捨てられてしまったのだろう。その大小として私は親のストレス発散道具となる事を余儀なくされた。神様は信じないくせにクリスマスは絶対に祝った。「物はいらないから、温かい家族をください」と叶うはずもない願いを毎年毎年いい続けた。都合よく神様を使った。みんなが学校に行きたくないのは家にいたいいから。なんて、贅沢なのだろう。それでも死にたいだなんて思ったことは一度もない。耐えられない暴力も私は恵まれている、私は恵まれているんだと毎日自分を言い聞かせて洗脳させた。ネットでは毎日のように「もう死にたい。」「生きるのが辛い」「死んだら楽になれる」とつぶやく人は一時間に一回は居た。誰もが待ちわび、誰もが恐れる死についてもっと知りたくなってしまう自分をなんとか抑えた。どのみち、この家で死について触れるのはタブーだ。パチンコして働かず育児放棄、人生をかなり謳歌している両親に憎しみが湧いた。私が今日を生きた証拠を誰かの思い出として生き続けたい。そんなふうに思ってる矢先、私は神様を信じることになった。「凰華…あなたが出なさい。私達は何も悪いことはしていないのだから堂々と話してくるのよ。」嘘をつけ。子供への暴力は虐待であって立派な犯罪だ。「あの、警察の方ですよね…?うちに何か用ですか…?」「ああ、ここの娘さん…佐藤凰華ちゃんかな?」「はい…そうですけど…」「隣の町田さんという方から話を聞いてね、今お母さんはいるかな?」「お母さんは居ません。」「そうなんだ。じゃあお父さんはいるかな。」「お父さんは居ません。」「どうして?」「仕事です。」「帰ってくる時間は知ってる?」「知りません。」「ご飯とかはどうするの?」「お母さんが作ってくれたご飯を食べます。」「なにかお家で困ってることとかはない?」「ありません。」「じゃあその腕と足の傷はどうしたのかな。髪も所々ごっそり抜けてるっぽいけど。」「この傷は学校で怪我したやつです。髪は昔患った病気でそこが治ってないだけです。もういいですか。いい加減しつこいです。帰ってください。」「そういうわけにも行かないんだよな。君はきっとお母さん火お父さんに虐待されてるだろう。きっと仕事なんて嘘で今もインターホン越しに僕たちの会話を聞いてるんじゃないかな。」「違います。親は居ません。仕事です。虐待なんてされるわけが有りません。」「ちょっと家の中失礼させていただくよ。」「ちょっとやめてください!」「この紙がなんだか知ってるかい。君の家を本人の許可なしに探ってもいいという許可証だ。法律で認められてるんだよ。だから君に拒否権はない。」「でも…!」「もういいわ。この役立たず。」「お、お母様…!」「お前が佐藤利奈だな。旦那の佐藤理貴はどうした。」「すぐに来ますよ。あーあ、全部凰華のせい。最初から私が行けばよかった。最期までクソガキね」「逮捕状が出ている。お前だけじゃない。お前の旦那もだ。」「げ、俺もかよ。」「当然でしょ。あのときあんたがちゃんと避妊しないからこういう事になったのよ。」「お母様…お父様…ごめんなさい…」「あんたのお母様になったつもりはない。せいぜいここで野垂れ死ぬのね。」「凰華さんはこちらで保護します。」「だって。良かったじゃない。町田のクソババアに感謝しなさいよ。」両親は暴行罪で逮捕された。偶に出る優しさはもうなくなった。唯一の愛をくれる人を失った。初めて強く死にたいと思った。願った。「凰華ちゃん、これまでよく頑張ってきたわね。でも、もう大丈夫。警察の方が保護して新しいお母さんもお父さんも見つかるからね。」太い腕で私の体を抱きしめたマチダにはただ憎しみを向けることしか出来なかった。リアルではもう私の居場所
大好きだったお父様、お母様へ 拝啓 余寒厳しき折ではございますが いかがお過ごしですか。 私は、このひまわり孤児院に引き取られてから5年が経ちましたが、不便は何も有りません。 施設のスタッフも、同じ境遇の子もみんな私に優しくしてくれます。 昼はキラちゃんという友達と遊び、夜は同じ部屋のキラちゃんとこっそり夜更かしをしています。 時々体調をくずすときはありますが、それでもあの時よりかは健康でやっています。 あの家は私にとって楽園でした。あなた達に優しくされなくても、今ここにきてこんなに幸せを感じることが出来るのはきっとああいった厳しい環境で育ててくれたからだと思います。 私達を通報したマチダはどうなりましたか。警察官は気を使って私をあの街からなるべく遠い保護施設を選んでくれました。だからもうあの街とは関わりがなくなってしまったのです。 あなた達は大金を払って刑務所から出たそうですから分かるはずだと思いますが。 また新しい子供を産んで虐待をしていないことを願います。私みたいな犠牲者は私だけで良いのです。 それとも、2人は離婚してパチンカスになっているのでしょうか。 お母様も、お父様も親御様が資産家のようですからね。私が全世界にあなた達の罪を告白したら間違いなく失墜するでしょう。私の手にあなた達の命が懸っていると思うと、あのときのあなた達と立場が逆転したようでとても嬉しく感じます。私はこんな文面の手紙を書いていますが決して恨んでは居ません。 2人が優しかったときはあったし、無意味な人生だと思ったことは一切ありません。 そこそこ成長できたこともあったものです。短気なあなた方はこの文面すら読まずに破り捨てるでしょうか。私は施設の子と心中をしようと思います。元々私は死にたい願望があって、あちらが私に好意を抱いてくれたので一緒に死にます。一人で飛び降りて死ぬより、2人で最後を迎えようという話になったからです。ただ、私は何もしないままこの世を去るのは悔しくてたまりません。 私達子供はあなた達のエゴで生まれてきたのです。それなのに、「あんたのお母様になったつもりはない。」と言われてびっくりしました。私だって絶対幸せになれる親を選びたかった。暴行なんて日常茶飯事、そんな家庭に生まれたくは有りませんでした。それでも、死なない程度に食事を与えられて、ネット環境を整備してくれたことは感謝すべきで恵まれていると思っています。キラちゃんだってそういった自分勝手な理由で生まれてきた子です。あなた達の邪魔、迷惑にならないように私達で勝手に死にます。あなた達の責任にもさせないし、死体の処理だって施設の方にやってもらうことにしました。隣では必死にキラちゃんがたった一人のお母さんに手紙を書いています。最中泣いていますがそれでも死ぬ結論は変えないそうです。私もその意見に賛同します。 人生の最後にあなた達の優しいところをこの目でもう一度見てから死にたかったです。でも私の我儘でそれにキラちゃんを付き合わせてしまうのは申し訳ないのであれは幻だと思っておきます。 今までの18年間、お金をかけて私を育て、キラちゃんに出会わせてくれてありがとうございました。 もし運よく生きていたらお会いしたいですね。近いうちに施設を通して連絡いたします。 それではまだまだ肌寒い日もありますのでご自愛ください。 かしこ 佐藤凰華