𝐈𝐟〈桃太郎〉2

「あれまあ、なんということでしょう！　桃から子供が生まれるなんて！」 「桃から生まれたから、『桃太郎』と名付けて、うちで育てよう」 「じいさん、それはいいですねぇ」 こうして、おじいさんとおばあさんは、桃太郎を ▷育てることにした ▶︎育てないことにした ……「育てないことにした」を選択しました。…… 育てないことにしました。 「でもね、おじいさん、私たち年寄りがこの子を育てても、この子は喜ぶかねぇ？」 「うーん、………それもそうかもしれん。この子は町の施設に預けることにしよう」 「そうね。明日、私が町に行ってくるわ」 「おぉ、ありがとう」 おじいさんとおばあさんは、桃太郎を施設に預けることにしました。 そして、いつも通りの暮らしが戻りました。 けれど、おじいさんもおばあさんも、あるときふと、「桃太郎は元気かな？」と思いにふけることがあるそうです。 おしまい。 ▶︎育てることにした ▷育てないことにした ……「育てることにした」を選択しました。…… 育てることにしました。 --- 桃太郎は元気に大きくなり、立派な少年になりました。 おじいさんの代わりに薪を割ったり、おばあさんの洗濯の手伝いをするような、とても優しい少年に成長したのです。 そんなある日、家に村長がやってきました。 そして、おじいさんとおばあさんに、「鬼ヶ島の鬼が、うちの村に悪さをしている」ということを話しました。 それを偶然聞いてしまった桃太郎は、話に割り込み 「僕が鬼退治に行きます！」と ▷言った ▶︎言わなかった ……「言わなかった」を選択しました。…… 言いませんでした。 村長は、一通り話を終えると、帰っていきました。 「じいさん、これは大変なことになったねぇ……」 「そうだなぁ……。村長さんは、村中の人に情報を伝えたと言っていたから、村中が警戒を強めるだろう」 「そうね。それなら少しは安心だわ」 そんな会話をしていたというのに……。 「大変だ、大変だぁ！！」 「鬼が大勢押し寄せてきたぞ！」 「隣のおっちゃん、やられちゃったらしいぜ！」 「もう、ほとんどの家がなくなってしまったわ……！」 「おじいさん、おばあさん！　それに桃太郎くん！　今すぐ町に逃げなさい！」 「え、えぇ！」 「わ、分かった……！」 「みなさん……！　みなさんも逃げてください！」 桃太郎は、自分たちだけで逃げるのは嫌だったのです。 でも。 「そんなこと言ってないで、早く逃げな！　俺たちは、この村のために戦うんだ」 「そうよ、私も残って戦うわ！」 「おれも！」「僕も！」「私もよ！」 次々に声を上げる人々を見て、桃太郎は 「ぼ、僕も！　僕も戦います！」 そう言い放ちました。 けれど。 「桃太郎くんはまだ子供だから！　村でただ一人の子供だから！　逃げて！」 「そうだよ！　桃太郎くんだけは守りたいの……！」 「でも……！」 「いいから早く行きなさい！　おじいさんとおばあさんが待ってるわ！」 「ほら、早く！」 強引に桃太郎の背中を押す、隣の家のおじさんの力に勝てるわけもなく。 桃太郎は、おじいさんとおばあさんと一緒に、町で暮らすことになってしまいました。 そんなある日。 町で暮らしている桃太郎たちのもとに。 「村が滅びた」という知らせが入ってきました。 「……ッ！」 「……ほ、本当なのか、それは……？」 「そんな……！」 「僕が……！　僕が皆さんを説得して、町に行かせればよかった……！」 桃太郎の心は、後悔の念でいっぱいです。 「桃太郎は悪くないのよ」 「そうだ、攻め込んできた鬼が悪いんだ」 「で、でも……！　僕たちだけ助かって……ッ！」 「……」 「……」 「みんな、僕のせいだ」 「……」 「……」 「ごめんなさいっ、ごめんなさいッ、ごめんなさい………ッ！！」 桃太郎の泣き声が、町中に虚しく響き渡りました。 おしまい。 ▶︎言った ▷言わなかった ……「言った」を選択しました。…… 言いました。 --- 「ほ、本当かい！？」 と、村長。 「ええ。僕が必ず倒して見せます！」 「おぉ、何と頼もしい子だ。ぜひ、お願いしたい」 「じゃあ、私は、桃太郎のためにきびだんごを作ろうかしら？」 「そしたら、わしは『桃太郎がんばれ！』と書いた旗を作るよ」 「おじいさん、おばあさん、ありがとう！」 そうして次の日、桃太郎は鬼退治に ▷出発した ▶︎出発しなかった ……「出発しなかった」を選択しました。……