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シックス・ラバーズ 第3話
高校に入学し、1ヵ月が経った。
5月。もうすぐでゴールデンウィークだ。
しかし、俺のクラスは今、沈黙に包まれていた。
「体育祭の実行委員、男子やりたい人いませんかー?」
誰一人手をあげない。もちろん俺もその一人なのだが。
体育祭は5月末に行われる。今は5月がはじまったばかり。
今、ホームルームで体育祭の実行委員決めをしているのだが、なかなか決まらない。
実行委員は各クラス男女1名ずつで選出される。女子はすぐ決まったのだが、男子が一向に決まらない。
俺もこんな状況になるのは嫌だが、面倒くさいので手は挙げない。
すると、しびれを切らしたのか、実行委員決めを回していたクラスの学級委員(女子)がとんでもない発言をした。
学級委員「じゃあ仕方ないので、指名で決めます。指名されても文句言わないで下さいねー。……えーっと、今日は5月5日………足したら10…はい!主席番号・10番!」
サッと血の気が引いた。10番は俺だ。
そして、学級委員が俺の方を向く。
学級委員「はい!〈俺〉くん!実行委員の男子は、〈俺〉くんに決まりましたー!」
なんてことだ………俺は頭を抱えた。心の中で。
そもそも運動なんて得意ではないし、放課後毎日のように準備で集まらなければいけないのだ。帰宅部エースの俺としては早く帰りたいので、面倒だ。
そして、早速実行委員の集まりはその日の放課後に行われた。
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先生「さあ、みんな集まったね。今日から、君たちには月末の体育祭の準備を放課後のこの時間に集まってやってもらいたい。早速だが、こちらで持ち場を振り分けておいたから、今からそこに向かってくれ。そして、次からはその持ち場で準備をすすめてほしい。じゃあ、発表するからなー。まず、競技のアイデア出し・佐々木、原田ー。トラックの整備・城田、佐藤、田中、秋本ー。――――」
俺の名前は、一向に呼ばれない。それに、準備は誰かと共同でやるようだ。
一緒にやる人が面倒くさい人でないことを俺は祈った。
先生「最後!そこの残った二人!使う道具の点数確認を体育倉庫で確認してくれ!あと点検もなー。以上!」
気がついたら、俺ともう一人の女子以外、みんなそれぞれの持ち場に行ってしまったらしく、ポツンと二人で取り残されていた。
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俺ともう一人の女子は体育倉庫へ移動する。
すると、その女子が口を開く。
「あの、〈俺〉って言うんだよね?よろしく!私は―――|百々音《ももね》!百々音って呼んでいいよー!」
ポニーテールのハキハキとしたその女子は、やはり口調も明るかった。
俺とは正反対。苦手なタイプの女子だ。
俺「あっ……よろしく。俺も〈俺〉でいいよ。」
百々音「オッケー!じゃあ〈俺〉!これからよろしくね!」
そう呼ばれて、俺はドキッとした。
今まで女子に下の名前で呼ばれたことがなかったので、新鮮だった。
百々音「さあ!仕事はじめよう!先生に、点検する道具のチェック表もらったんだよねー。」
百々音さんは俺にチェック表を見せる。
俺は驚いた。道具の数はざっと数えて100種類はあるだろう。
俺「こ……こんなに……!?」
百々音「まあ、1ヶ月くらいあるから、余裕だよ!頑張ろ!」
こうして、俺と百々音さんの過酷(?)な体育倉庫点検が始まり―――
あっという間に終わった。
そうして、体育祭当日がやって来た。
俺たち体育祭実行委員は、事前準備とは別に当日準備の係も振り分けられていた。(一緒にやるメンバーは一緒。)
俺と百々音さんは、会場設営。
とっても大変だった。メンバーは俺と百々音さん以外も数人いたものの、朝早く集合しなければいけないし、終わったら夕方まで残って片付けをしなければならない。
百々音「〈俺〉!調子はどう?」
俺「どうって……普通だよ。」
百々音「もー、いつもそうじゃん!普通って何だよーっ。」
1ヶ月近く共に作業をしたからなのか、百々音さんとは大分普通に話せるようになってきた。
そしていつも会うたびに百々音さんとはこんな会話をしている。
百々音「はあーっ、〈俺〉と同じチームだったら良かったのに……そしたら私とっても嬉しかったのになー。……でも、私〈俺〉のチームには負けないからね!」
俺「所詮体育祭なんてイベントで競うだけだろ。オリンピックじゃあるまいし。勝っても負けても俺にはどうでもいいね。」
百々音「もーっ、冷たいなぁ!君にはそういう勝ちたいとか言う感情はないのかいっ!?」
俺「ねーよ。」
そうだ。俺は昔から何事にも無頓着だった。
何かに本気で取り組んだことが無かった。
そりゃあ、責任は人並みにあるから、やれと言われたことなら最後までちゃんとやり通す。
だけど、そういうこと以外は全部無頓着だった。
何で体育祭でみんな張り切るのか、俺には理解し難かった。
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百々音「ふぅー。終わった!よし!後は体育祭を待ち望むだけだ!」
ようやく会場設営が終わり、俺と百々音さんは一段落つく。
俺「何で、百々音さんはそんなに体育祭に気合を入れてるの?」
百々音「……いや、だって私、頭悪いし、馬鹿だしアホだけど、運動だけは昔から自身があって!それに、体を動かすの大好きなんだ!体育祭は、私が唯一活躍できる大切な居場所なの!……〈俺〉くんにだって、あるんじゃないの?“大切な居場所”!」
俺「……俺は、別に……」
すごいな、百々音さんは。
俺なんかよりずっとすごい。
俺は、百々音さんを少し尊敬した。
つづく