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するがハート
放課後の夕焼け色に染まる教室。
そこに1人、黒い影のような姿があった。
その姿の名前は
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「ぼーくでーすよー」
「だろうな」
…というわけで、扇君がこの三年生の教室に
いる。なにが「というわけで」何だよと、
言われて仕舞えばそれはそうなのだが、
お恥ずかしいことに語り部である私も分かって
いない。そもそもこのヘラヘラとしている黒い後輩、忍野扇についてもよく分かっていない。私の一番のファンを自称している後輩で、
黒くて慇懃無礼だという事は知っているの
だけれど、それ以外が妙に分からない。
というかそもそも扇君が後輩なのかも怪しい
ぐらいで、いつ出会ったのかも不明瞭だ。
この忍野扇という男子高校生に関する記憶が
軒並み欠如している。というか男子高校生
なのかもすら分からない。
逆になんなら分かるのだろう……?
そんな風に私にしては珍しく熟考していた時。
扇君は、おや、なんて声を出して、つい下を
向いていた私の顔を覗き込んだ。扇君は私より背が低い…と思うけれど、それもあやふやだ。
存在自体がよく分からない。俗に言うUMA
みたいなものなのかもしれない。
「ってうわっ!いきなり人の顔覗き込むな
びっくりしただろ!」
「ようやく終わりました?16文ありましたよ。これ二次創作なんですから原作みたいに長く
書かなくていいんですよ?二次創作を見に来る人は手短に需要を供給したいんですから
そこら辺もっと考えて下さい。そんなんだから僕が出てくるし愚かって言われるんでしょう」
「なんで君は初手からそんなにフルスロットルなんだよ。てか私そんな考えてたか?」
「いえ、原作と比べたらまだまだですけど、
これ二次創作ですから。基本1000文字ぐらいのを見に来るんですよ。あとまだフルスロットルじゃありません。さっきのは準備体操です」
さっきのが準備体操なんて、末恐ろしい子だ。
この子が本気の口論をしたら、確実に負ける気がする。勝てるとしたら…羽川先輩か?
「巨乳先輩に負けるとか屈辱的ですね。絶対
負けたくありません。別に好敵手とかじゃないですよ?なんでしょう、敵対意識があるって
だけで、仲良くしたいと思いません」
そんな仲です、とヘラヘラと笑いながら、
(正確には目が全く笑っていなかった。怖い)
扇君は適当な席の椅子を引いて座った。私の席の近くだったので、私も自分の席に座る。
「教室といえば、駿河先輩はなんでここにいるんですか?僕はまぁアレなんでいいとしても、
駿河先輩がいる理由はないでしょう?」
アレの部分が気になるが、とても気になるが
気にしない事にして質問に返答する。
「たまに来たくなるんだよ。なんとなくだ。
理由なんてなに一つないよ。扇君もそんなもんだろう?」
「いえ違いますが」
「そこはそうですねーとか適当でもいいから
同意するんだよ…」
ふぅ、と息を吐いた。
溜息みたいな、でも違うような息だった。
腕を机に置いて枕のようにして、頭を置いた。
腕が痺れてしまう体勢ではあるけれど、
今はそんな事はどうでもいい。考えたくない。
窓の外を少し眺めて、 腕に顔を埋める。
「駿河先輩元気無いですね、大丈夫ですか?」
「……後輩の手前、本来言わないんだけど。
扇君には何故か隠せないな…」
少し目頭が熱くなる。腕に擦り付けてそれを
振り払う。扇君の方は、絶対に向けなかった。
「僕は全ての物語の聞き手ですから。どんな
お話でも聞き届けて差し上げますよ。言って
みたら案外楽になるかもしれませんしね」
いつもより少し温かいような言い方に、固く
締められた蛇口を開いた時みたいに溢れた。
後輩に向けれるような顔じゃなかったから、
そこだけは意地を張って、自分の腕で顔を
隠し続けた。それでも目から溢れて流れる
それだけは、止められなかった。
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「あー……目が腫れてるって分かる…」
濡らしたハンカチで目を押さえながら呟いた。
「ほんっと駿河先輩ってすぐ溜め込みますね。なんでもそうですけど。」
扇君は頬杖を突きながらこちらを見ていた。
夕焼け色に教室も私も染まっていたけれど、
扇君は黒かった。その黒に、少しだけ安心も
覚えた事を言える日は、来ないんだと思う。
「はー……もういいかな。あーあ、折角の
放課後無駄に消費したよ」
ハンカチを机に置き、ぐっと伸びをする。
ハンカチを手に取って、ポケットに入れる。
「駿河先輩が無駄に消費したなら、僕も無駄に消費しちゃったんですよ?あーあ、優しい先輩ならどうするのかなー!」
「その見え見えの誘いやめろ率直に言え!」
「えー?後輩に言わせるなんて…先輩も
モノ好きですね。さっすが変態、阿良々木先輩のエロ奴隷を自称するだけありますよ」
「その含みのある言い方をやめろそして
なんなんだよその不名誉すぎる肩書きは!」
「はっはー。まぁいいじゃないですか。
それともあっちの方がよかったですか?
がんばる駿河ちゃん」
「何故知っている!?何故知っている、私が
中学生時代自ら名乗った異名を…!」
「僕は何も知りませんよ」