公開中
失恋と一歩
「じゃあね」
その一言が、私たちの3年間に打たれたピリオドだった。
改札口の向こう側へ消えていく彼の背中は、一度も振り返らなかった。
人混みに飲み込まれていくその姿を、私はただ棒立ちで見つめていた。
胸の奥が、冷たい水で満たされていくみたいに重くて、苦しい。帰り道、ぽつぽつと雨が降り出した。
傘を持っていないことに気づいたけれど、もうどうでもよかった。
涙なのか雨なのか分からない水滴が、頬を伝って地面に落ちていく。
家に帰り、静かすぎる部屋でスマホを見る。
待ち受け画面には、去年の海で撮った笑顔の二人がいる。
「嘘つき」
声に出すと、余計に涙が溢れた。
あんなに「ずっと一緒」って言ったのに。
あんなに優しく抱きしめてくれたのに。
恋が終わる時は、こんなにもあっけない。
部屋を見渡すと、彼が置いていったマグカップや、一緒に買ったクッションが目に入る。
どれもこれも、楽しかった思い出の塊だ。思い出せるのは、優しい笑顔ばかり。
だからこそ、もう隣にいられない現実が、ナイフのように心をつきさす。
悲しくて、悔しくて、もう何も考えたくなくて、私は布団を頭からかぶった。
彼がいない明日の朝を迎えるのが、心底怖かった。
---
それから1ヶ月が経った。
失恋の傷がすぐに消えるなんて嘘だ。今でも胸はちくちくと痛む。
だけど、雨はいつか止むように、涙も出尽くす時がくる。
私は今日、部屋の模様替えをした。彼のマグカップを箱にしまい、新しい青色のクッションを買った。
スマホの待ち受けも、お気に入りの空の写真に変えた。
心の中の思い出を、消しゴムで少しずつ消していくような作業。
完全に真っ白にはならないし、こすった跡は残ってしまうけれど。
それでも、新しい文字を書くためのノートの隙間は、こうして作っていくものなのかもしれない。
窓を開けると、雨上がりの澄んだ風が吹き込んできた。
深く息を吸い込む。
「よし」
小さく呟いて、私は一歩、前を向いた。