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【黎翔の館】,1,〜背後〜
あの日、私は駅にいた。
私の家から学校は、電車に乗って通学する。
またコソコソと声がした。
何を言っているのかは、分からない。
でもそのトーン、明らかに悪い陰口だ。
私はここ最近、クラスのカースト上位の女子達にいじめられているらしい。
前までいじめをされていた生徒が私を売ったのだ。
まあ、その生徒とは仲が良かったが、つい一ヶ月前に喧嘩して縁を切ったのだ。
ーーー私、もっと気を使うべきだったのかな。
いじめより、喧嘩の後悔をしながら、私は電車を待つ。
それから十分後。
電車が来る音が聞こえてきた。
やっと、帰れる。
でもあとちょっと、電車を降りるまでいじめっ子の陰口を我慢しないといけない。
少し先に、電車が見える。
乗る準備をしないと。
「えいっ」
ーーえ?
不意に背中を押される。
私の身体は前に倒れていく。
必死に背後を振り返った。
ニタニタ笑ういじめっ子たち。
前に聞いたことがある。
電車に轢かれて助かった事例は、極めて稀であり、ほぼ無いと。
でも…私には丁度良かったのかも。
目を閉じて、死ぬ覚悟を決める。
ーーーーーーー。
「おい」
ーー次は何?
振り返ると、人がいた。
私と同じくらい、いや一つ上くらいの年齢?
銀髪、濃い翠色の瞳。
その目はキリッとしていて、私と同じ人間だとは思わなかった。
「下界に未練はないか?」
彼は、私の方を見て聞く。
「……死んだの? 私」
死んだら浮ける。
そんなことを誰かが言ってた気がする。
そう思い私は足元を見た。
以外なことに、私は地面に立っている。
身体の輪郭もはっきりしている。
ここに存在している感覚。
私が、小さい頃に誕生日ケーキを豪快に食べ過ぎて、お笑い芸人みたいに顔にケーキが付いて笑われた。
私が幼稚園児の時、よく男の子たちと木登りをして遊んでいた。
小学生の時、クラスのイケメン男子に恋をした。だが一ヶ月はもたなかった。
あの日、中学生の時。
いじめっ子に背中を押されて電車が迫ってきた。
ブレーキの音。
そこで記憶は途絶えていた。
病院に入院していた記憶は無い。
怪我をした記憶も無い。
「ああ、君が死んだ年からもう四十年は経っているが……、…未練があり過ぎて、死界の記憶が飛んでいる」
「え、あ、そ、そうなの?」
「君は死んだこの場所で、この四十年間ずっと立ち尽くしていた。」
「ってことは、あなたが見てたってこと?」
「あぁ…まあな」
「その間に声掛けてよっ!?」
「いや、それを拒否したのは君だ」
「えっ…!?」
聞けば、私は何度も何度も下界と死界を繋ぐ、閉ざされた|道《境界線》を無理矢理開けようとしていたらしい。
…何でだろう。
他の記憶は思い出せたのに、肝心のその記憶だけはどうしても思い出せなかった。
「ということで、四十年経ってようやくその記憶も薄れた訳で声を掛けてみた」
「ちょっと………、ねぇ…他の死霊はいないの?私みたいな」
「う〜ん、まあ、いるにはいるのだが、皆話が通じない」
あぁ〜、ついこの間までの私みたいにね。
えー????
「じゃあ何で私は通じるの!?やっぱ未練関係の!?」
「いーやぁ……、じゃあ俺は何に見える?」
人型…、といえば…?
「人間?」
彼は、少し考えるような素振りをして。
「じゃあ、抜き身では?」
私がまだたきをすると、彼の頭には青色の角が…
「えっ!?コスプレしてる人!?」
「…コスプレ?まあ、いいが…」
とても人間とは思えない。
むしろ…
「鬼?」
「少し違う。妖魔だ」
妖魔?あの?ファンタジー小説に出てくる…?
「本当にいたんだ…」
「君にもその素質があるな」
…っ!!!?
素質!!何それ…!?
「少し薄いがケモミミが」
この人獣耳をケモミミって…
私は頭を触る。
ふわふわ。
……ふわふわ!?
ピクピク動いて、とんがっている。
猫…というよりは、犬……柴犬みたいな?
「……可愛い」
尻尾…も生えている。
短い、ふわふわ。
……妖魔?
死界……?
そういえば、この人が住んでいる?場所は?
「ねぇ、あなたの名前は?」
「……う〜ん…、ルレアで」
「どこに住んでいるの?」
「黎翔館の居候だ」
居候……??
「君も居候になるか?……|永遠実《とわみ》なら許してくれそうだしな」
と、わ、み……?人名……?
「あ、うん、しばらく、そうする…」
ネガティブな話しか書けないとこが悪いとこ。
たまにはほのぼのしたやつ書きたいのに。
まあ、いいや。
何?背後って。
たしかに押された時、話しかけられた時は背後振り返ったけどさ?