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side Kai - 3
ぼんやりと寝込んでいた。どこか意識が鮮明だった。
『ねー、カイ。この子かっこいいよね!』
彼女の声がする。その手に握られているのは漫画だった。
夢だと認識できたのは、これが明晰夢だからか、それとも過去の出来事だからなのか。
『五分前もそれ言ってたよね』
『いいじゃない本当のことなんだから!』
元気|溌剌《はつらつ》としたその様子に苦笑したのを覚えている。
この頃、彼女はとある漫画に夢中になっていた。内容はファンタジーものであることしかよく覚えていない。それに出てくるサブの少女キャラが推しなんだとかなんとか言って、四六時中そのキャラのことばかり喋っていた。
『僕とその子、どっちが好きなの?』
特に嫉妬などをしていたわけではない、……多分。ただの戯れのひとつとして、彼女にそう聞いたこともあった。
『え? えー、選べないよ』
おどけてそう言うのを|拗《す》ねた顔して返せば、彼女はいつも『嘘嘘! カイの方が好きだよ!』などと前言撤回していた。ああ、懐かしい。引き裂かれるほど。
『この子ね、すごく強くて凛々しくてカッコいいんだよ。でも、たまに女の子相応に可愛いところもあるの。推さない理由がなくない? あー私もこの子みたいになりたかったなぁ』
一日中推しキャラについて喋っている彼女だったが、最後は必ずその一言で締めた。
そのキャラみたいじゃなくてもいいよ、とは言わなかった。彼女が抱いている憧れに傷をつけたくなかったから。
彼女が明確にそう望んだ記憶はないが、おふざけか本気か、いつしか僕は彼女をそのキャラの名前で呼ぶようになった。
———リリィ。
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「———リリィ。」
彼女を呼ぶ自分の声で、ハッと目が覚めた。
周囲を見回すと、とっくに暗かった。部屋の明かりも消えている。眠っている間に夜になったのだろう。彼女が作ったご飯を食べてから、どうやって過ごしたのか全く覚えていない。
う、と首を動かすと、ゴキッと音が鳴った。固くなっていたらしい。
「カイ?」
呼び声がした。目を向けると、彼女がいた。床に座っていて、ベッドの上に頭を伏せて僕を見上げている。
ずっと僕の部屋で、僕の側にいてくれていたんだろうか。
彼女が手を伸ばして、僕の頬に触れた。どうしたの、と考える前に、僕はその手に自分の手を重ねた。
どこか冷たくて、濡れていた。
「どうしたの? 何か嫌な夢でも見たの?」
……夢。いや、幸せな夢だった。もう二度と戻れない夢。
お互いに何も話さなかった。部屋の中は暗くて、彼女の顔はよく見えない。声だけが暗闇に光って消えていった。彼女がじっと僕の目を見つめる。それから立ち上がって、毛布の端を両手で握って僕に掛け直した。
「……大丈夫、私はここにいる。」
誰かに、言い聞かせるように。リリィがぽつりと|呟《つぶや》く。
ふ、と強烈に眠気を感じた。溶け入るように、意識が遠くなっていく。
「全部覚えているから。───だから、大丈夫よ。」