幻現(ディヴィジョン)①

｜燐《りん》:「・・・・・・」 ｜凍矢《とうや》:「あいっかわらず大きな屋敷だなぁ……」 　燐と凍矢は無言のまま門や屋敷の大きさを見ていた。燐が訪れているのは【｜香沙薙組《かざなぎぐみ》】の屋敷 いわゆる【本家】だった。香沙薙組は｜逢間市《おうまし》を拠点にしている【極道】。しかし 他の組織と比べて真っ当なシノギ(※1)を行っており 香沙薙組から逮捕者は出ていない。地元でのボランティア活動等にも積極的に協力しているため【極道らしくない極道】である。 燐:「｜悠河《ゆうが》には昨日のうちに連絡して いつでも入っていいと了承はもらってるから 入ろうか｣ 凍矢:「・・・燐、俺が行かなくても平気か？」 燐:「凍矢にばかり頼ってはいられないよ。私だって大人なんだから!!!」 　鼻息を少し荒くして気合を入れているようだ。 凍矢:「燐………」 __ギィィィ・・・__ 木造の門を開き、中に入る。 燐:「お、おはようございます!! 昨日連絡した｜睦月《むつき》 燐というものです!!」 　元気に挨拶をすると、すぐそばに居た組員たちが近寄ってきた。 組員:「あ゛あ゛？　貴様 ここをどこだと思ってんだぁ？　ここは香沙薙組の本家、カタギ(※2)の人間が簡単に入っていい場所じゃねぇぞ!!」 　長身の燐と同じくらいの男性組員が睨みつけている。 燐:「悠河に会いに来たんです！ 燐が来たと伝えていただけませんか？」 組員:「悠河さんの名前を知ってるということは貴様…… 敵対組織の人間か!!!?」 燐:「え、ええ!!? て、敵対組織!!?」 凍矢:「ど、どうなってんだよ!! 燐!!」 燐:「知らないよ!! ちゃんと悠河にはアポとってるのに!!!」 　燐と凍矢は突然のワードに動揺が隠せないでいる。 燐:「ちょ、ちょっと待ってください!! 私達は悠河と待ち合わせの約束を取り付けてるんです!! 敵対組織なんて、とんでもないですっ!!」 負けじと燐も応戦する。 組員:「貴様ら……それ以上ふざけたことを言うのなら｜屋敷《ココ》からは生きて帰さねぇぞ!!!」 燐:「ｯｯｯ!!」 　この瞬間フッと燐の目は閉じ、頭はガクンと前に倒れた。燐と凍矢が交代するトリガーは色々あるが最も優先されるのは【燐が恐怖や悲しみの感情を感じた時】である。凍矢は燐の過剰な【恐怖 悲しみの感情】から生み出された人格であり、その感情がわずかにでも生まれると凍矢はゾクッとするような感覚に襲われる。【燐の身に危険が迫っている】と判断され、《《強制的に》》入れ替わる。 (ここからは凍矢口調になりますが、外見は燐なので組員vs1人の女性 という構図になります。なにせ組員たちは主導権を握っているのは凍矢だと知りませんから(・∀・)　かなーーーり荒っぽくなります。) 　凍矢はスっと目を開き見上げるように組員を睨みつける。 凍矢:「うるっせぇなぁ……。 てめぇら《《｜組員共《ザコ》》》に用はねぇんだよ!! とっとと悠河を出せ!!」 組員:「何だと……!! ｜香沙薙組《俺ら》に喧嘩を売るつもりか!!? おい、野郎ども!!」 　凍矢を囲むように５、６人 いやそれ以上の組員が集まってきた。 凍矢:「くっ、クハハハハハハ!! いいぜ！ ここ最近 戦闘もなかったしな！ 腕慣らしにちょうどいいか！」 　凍矢は顔を手で覆うようにして高笑いし、目をカッと見開いては煽っている。 燐:「と、凍矢!!!? 私達は悠河に会いに来ただけなの！ 早くこの場を収めないと!!!」 凍矢:「そいつは無理だな 燐。 なにせ思いっきり焚き付けてしまったからなぁ!!!」 燐:「あーーーー もう！ なんでいつもこうなんの!!【泣】」 　顔を両手で覆い、深いため息をついている。香沙薙組を訪れた際には毎回こうなってしまう、もうちょっと平和に会えないの・・・？ といつもため息をついていた。 --- 組員:「手加減の必要はねぇ!! 行くぞ、オラァァァァァ!!!」 　組員達からパンチや蹴りが襲いかかるが 凍矢は二っと笑い 直撃しないようサラッといなしてる。 凍矢:「たまには身体動かさないと｜鈍《なま》っちまうからなぁ!!!」 　　 　思いっきり戦いを楽しんでる人が1名。 燐:「凍矢!!! 相手はトランサーじゃなくてただの人間。私達が本気になってしまったら相手は死んじゃうんだからね！」 凍矢:「分かってるって、気絶させる程度に《《遊んでやる》》さ！｣ 　トランサーと戦っている時くらいの《《いい笑顔》》をしていたその時だった。 __ｽﾊﾟｯ!!__ 凍矢:「ｯｯｯ!!」 　拳を躱したはずが風圧で軽く頬が切れてしまったようだ。 凍矢:「いってて…… しくじっちまったか。なかなかやるじゃないか。 ……ん？ どうしたんだよ そんな固まって……。ｯｯ！まさか……｣ 傷はもう塞がりかけてたが【青い血】が僅かに流れていた。 凍矢:「ﾁｯ 少し血が流れてしまったか」 組員:「ば……ば……」 凍矢:「あっ…… まずいな(汗) 俺達が人間じゃないってバレちまった」 燐:「と、凍矢……？ 嘘でしょ？」 組員:「化け物が出たぞーーーー!!」 　男の叫びを聞き、銃火器を持ち出した組員まででてきた。 凍矢:「おっと…… ステゴロ勝負は終いのようだな」 　ツーっと汗が流れ、両手を上げる。武器がない これ以上の敵意は無いと示しているが、それも1歩遅かった。 ｻﾞｼｭ 　背中から日本刀で刺され 引き抜かれた。しかもその位置は……【腎臓のある位置】だった。大量の【青い血】が流れる。 組員:「は、ははは。 どうだ化け物め……!!」 凍矢:「ぐっ…… さすがにまずい。｜消《イレイズ》でも抑えきれねぇ……」 　どくどくと血が流れ続ける腹部を手で押さえ、その場に片膝立ちのような姿勢になる。｜消《イレイズ》を物質化させ 包帯のようなものを作るが止血が追いつかない……だんだん視界がぼやけてきた その時だった。 ？？？:「貴様らァァァァァ!!! 何騒いでんだ!!!」 　全員が声のした方を見る。凍矢も何とか瞼を開いて見ると、【香沙薙組 組長 ｜香沙薙将吾《かざなぎ しょうご》と香沙薙組 若頭 ｜香沙薙悠河《かざなぎ ゆうが》】が歩いてきた。 組員全員:「｜組長《オヤジ》!! カシラ(※3)!! お疲れ様ですっっ!!」 　組員全員が悠河達にバッと身体を向け、後ろで手を組んでお辞儀している。 将吾:「貴様ら、こんな朝早くに何 揉め事を起こしてんだ!!!」 組員:「｜組長《オヤジ》!! 組内に化け物が入ってきたので討伐していやした！ ニュースでやってるトランサーって化け物ですぜ！」 悠河:「トランサーだと……？　噂に聞くくらいだったが、本当に……い……た……」 　将吾と悠河は 腹部を抑え倒れ込む人影を見つけると 組員たちをかき分け、その人物の元に行く。 悠河:「燐!!!」 将吾:「燐ちゃん!!!」 悠河:「燐!!! 大丈夫か!!!? 何があったんだよ!!?」 　前から抱き起こすようにし 支える。 凍矢:「よ、よぉ…… 悠河…… 今……は……俺……だ……。悪ぃ…… ちょっ……と……焚き付け……過ぎ……ちまった……｣ 　ハァ ハァ と息が漏れながら言葉を必死に紡ぐ。 悠河:「・・・!!! なんだよ、この大量の血は・・・!!?」 　手には青い血がべっとり ついていた。 凍矢:「(まずい……血を…… 流しすぎた……。意識が……保てねぇ……)」 　腕がダランと重力に従い落ち、フッと目を閉じると悠河に身を預けるように倒れた。 悠河:「燐……？　燐ーーーーーーー!!!」 　悠河の悲痛な叫びが響きわたった。