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アルバムオルゴール【1】
窓の外から聞こえるセミの合唱は、耳が痛くなるほどのものだった。
毎朝8時頃になると、一匹のセミが「ミン」と鳴き始める。
するとそれにつられて、他のセミも「ミンミン」と鳴き始める。
そして今、午後2時にもなると意図せず大合唱が完成するのである。
ヒヤッと、急に頬が冷たくなった。
「冷たっ!?」
だるさが一気に吹き飛び、慌てて頬を触る。
横を見ると麦茶が入ったコップを手にした姉さんが、私を見てニヤニヤしていた。
「冷たいやろ?麦茶入れてきたから飲みな。飲まんと死んでまうよ。」
「びっくりした。うん、ありがとう姉さん。」
私はコップを受けとると、麦茶を一気に飲み干した。
「おお、すごい飲みっぷりやね。喉かわいとったの?もう一回入れてこようか。」
「うん、めっちゃ喉乾いてた。もう一杯お願い。」
「じゃあ入れてくるから待っとってね。」
姉さんが部屋を出ていって間もなく、それは起こった。
ガタンッガタガタガタッドンッと、ものすごい音が廊下から聞こえた。
「え、なに...?なんの音...?」
びっくりした私は廊下に出る。
音がしたのは階段からだった。
階段をおそるおそるみると、階段の一番下で誰かが倒れていた。
「え......?」
そこには姉さんの姿があった。
きっと階段を降りる際に、足をすべらせて階段から落ちてしまったのだ。
慌てて階段を駆け下りて姉さんの体を揺さぶる。
「姉さん!?大丈夫!?」
しかし反応はない。
「姉さん!姉さん!きゅ、救急車...!」
震えた手で電話を手に取る。
「はやく、はやく来て...!」
焦りと不安の中、目を開けない姉さんの隣で、受話器を握りしめる。
落ちた衝撃だろう、二つのコップのうち一つのコップは割れてしまっていた。