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僕と話す彼女
ほのか
早乙女さん……葵と話す時間が出来たのは昼食のときだった。
他の人達はおおかた葵とはもう話したみたいだし、昼食の時間は席を移動することが出来ないから、ようやくそれで席が近い僕にも喋るタイミングがやってきたというわけだ。
「ねえ、葵はさ、今までどういうときになら寒さを感じたことがあるの?」
いきなりさっきの僕の名字に対する反応が何だったのかは聞けなくて、他の話から入ることにした。
「私? そうだなぁ、旅行で北海道に連れて行ってもらったときはさすがに寒いと思ったなぁ」
「冬の?」
「うん」
「それで、長袖を着たの?」
「ううん、長袖を普段は使わないのに持っているのもあれだから、半袖の上に長袖のカーディガンを着たくらいかな」
「……それだけ?」
「うん」
……信じられない。
真冬の北海道で、半袖にカーディガンだけ?
そこよりも遥かに暖かいこの土地の今でさえ、僕は制服以外にも四枚ほど着込んでいるんだけど……
少し、いや、かなり、理解が追いつかない。
「凄いね。僕は寒がりだから真逆だ」
朝、布団から出ることだけでも一苦労。
「そうなの?」
「うん。……葵はさ、夏はどうしているの?」
「夏? 夏は扇子を常備して、それで仰ぎながらクーラーの風を強くしてもらって過ごしている。ま、気がついたら周りが風を弱くしてしまうんだけどね」
……苦労しているなぁ。
僕が冬にしている苦労に、葵が夏にしている苦労。それに親近感が湧いてくる。
「……あのさ、うちの妹に会ってみてくれない?」
「妹さん? どうして?」
「実はうちの妹、自称暑がりでさ。冬休み前まではずっと半袖だし、小六なんだけど学校でも昼間は上着を脱いで半袖らしいんだよ。
小一までは普通だったから、強がっているだけだと思うんだけど……
だから、本当の暑がりを見せてやって欲しいなって思って」
「そんな妹さんがいるんだ。あの夏服の子みたいだね」
ひかるかぁ。
「ひかるはまだいいんだ。寒いって認めているから。だけど妹は寒いと思っているはずなのにそれさえ言わずに半袖だから心配で……」
「うん、いいよ。いつにする?」
「今度の週末とかでいい? どっちが空いている?」
「うーん、冬青がどっちでもいいなら日曜日がいいかな。土曜日は片付けに追われそうだし」
「分かった。昼過ぎに葵の家の方に迎えに行くね」
「え? 何で知っているの?」
「葵の家って、早乙女のおじいさんおばあさんのところでしょ?」
「あ、そっか。そりゃそうだよね。分かった、お願いするね」
「うん」
話のキリがつき、葵が昼食を食べ終えたのを境に、僕と葵の会話は消えた。
「さっそく遊びに行く約束か?」
合掌をし終えたとたん、武がこちらにやって来て話しかけてきた。
「いや、妹の目を覚ますための約束」
「ほうほう。これは相当に手が早いようで」
「なんで僕が手練れみたいになっているんだよ……」
「ノリ悪いなぁ」
「内容が内容だし」
「はいはい。だけど、結構みんな羨ましげだったよ?」
「……」
気づいてはいたことだったし、面倒くさかったから、無視することにした。
大体、こんなの偶然だ。
早く葵と遊びたいなら、明日の金曜日にでも約束を取り付ければいい話なんだから。
自分から頼んだこととはいえ、思わずそういうことから逃避してしまうのだった。